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新大関・琴ノ若「結婚には乗り遅れましたが」“ヤサ男”を変貌させた高校時代の「恥かき100番」猛稽古

スポーツ 投稿日:2024.03.16 06:00FLASH編集部

新大関・琴ノ若「結婚には乗り遅れましたが」“ヤサ男”を変貌させた高校時代の「恥かき100番」猛稽古

大関昇進を決めた一月場所後、全国の後援会から高級ガニなど、お祝いの品が続々届いた

 

「埼玉栄中学校・高校の6年間で培った気持ちを胸に、上を目指して精進して参ります」

 

 新大関として三月場所に臨む琴ノ若(26)は、場所前に同校で大関昇進報告会をおこない、約3000人の中高生に拍手で迎えられた。

 

 祖父が元横綱の琴櫻、父が元関脇の琴ノ若(現・佐渡ヶ嶽親方)という“サラブレッド”。琴ノ若は小学生になると、地元の名門道場・柏相撲少年団に所属して稽古に励んだ。小学校時代に指導した永井明慶氏が振り返る。

 

 

「私は将且(琴ノ若)が高学年から指導したんですが、すでに身長は160cmほどで、体重も80kgを超えていました。ただ、おっとりした性格で優しすぎた。そういった性格は、ときに勝負ごとでは邪魔をします。当時『強い』と感じたことはなかったですね」

 

 家系を考えればプレッシャーもあったと思うが……。

 

「本人も意識していたと思います。ただ、彼のすごいところは、日々の努力で乗り越えていったこと。そこに価値がある。ご両親は礼節をきちんと教えていたし、感謝の気持ちを忘れないように育てていました。だからこそ、大関昇進の際の口上に“感謝”という言葉が入っていたのだと思います」(永井氏)

 

 中学は名門・埼玉栄中に進んだが、これは偶然の賜物だった。父がスカウトで埼玉栄高を訪れたとき、相撲部の山田道紀監督から「息子さんをウチにどうですか?」と、逆オファーを受けたのだ。山田監督が当時を振り返る

 

「名門部屋の御曹司ですし、将来は力士はもちろんのこと、部屋の跡継ぎにもさせないといけない。ただ、入ってきたときは、体は大きいけどポッチャリ体型。小学生のころは関東でそれなりの成績を残していたみたいですが、全国的に見れば強いというわけではありませんでしたね」

 

 山田監督の指導方針は、中学ではほとんど相撲を取らせず、徹底的に基礎を教え込む。

 

「四股、てっぽうなど基本を毎日やる。それは単純な練習で、手を抜くコもいる。でも、彼はそれがいっさいない。基礎の大切さを、このころから理解していました」(山田氏)

 

 じつは埼玉栄中卒業後、琴ノ若は佐渡ヶ嶽部屋に進むことが決まっていた。だが、土壇場で埼玉栄高への進学を強く希望した。琴ノ若が語る。

 

「当時の自分は弱かったですし、まだ大相撲で通用する力はなかった。そこで、師匠と女将さんに『栄高に行かせてください』とお願いしたんです。山田先生のもとで強くなれると信じていましたから」

 

 高校進学後も基礎練習は続いた。その努力が実を結び、高2でインターハイのメンバーに選ばれた。ただ、思うような結果が出せず、山田監督は後悔の念に駆られたという。

 

「使わなければよかったというレベルでした。体はできてきたんですが、なにしろ性格が優しすぎた。だから、取りこぼしが多かったんです」

 

 団体戦で敗れると、悔しさを露わにした琴ノ若は、試合直後自らに猛稽古を課した。山田監督は、いまでもその光景が忘れられないという。

 

「大会後に表彰式がおこなわれたのですが、その最中に隣のサブ土俵で、相手を次々に変えて連続で相撲を取る稽古を始めたんです。彼は倒されても押し出されても、相手に向かっていった。ふらふらで息も上がって、体は泥だらけ。それを大勢の観衆が見ていて、恥ずかしかったと思います。でも、彼はやり続けた。そこからです、変わったのは」

 

 琴ノ若本人も、あの稽古が分岐点だったと認める。

 

「ぶっ通しで100番くらい取りました。意識朦朧というか、記憶がなくなりかけて……。でも、あの経験があったからこそいまがあると思っています。悔しい気持ちもあったし、勝ちへのこだわりというか、執念というか、いろいろな思いを教えてもらいました」

 

 その猛稽古を経て、高3の夏に主将として臨んだインターハイで優勝。そして、あこがれの角界の道へと進んだのだ。

 

 新大関として追われる立場となったわけだが、琴ノ若にライバルの存在を尋ねると、「いない」と言い切った。

 

「戦うのは自分自身なので。気になる存在でいえば、埼玉栄の後輩で同じ部屋の琴勝峰です。彼も番付が上がってきて、自分も負けられない。ただ、琴勝峰が先に結婚したじゃないですか。乗り遅れましたね(笑)。よく『次でしょう』と言われるんですが、当分ないでしょう。というか、先に相手を見つけなければいけませんから(笑)」

 

 琴勝峰の父・手計(てばかり)学さんは、千葉県柏市で居酒屋「達磨」を営み、琴ノ若とはいまでもつき合いがあるという。

 

「一月場所の直前に、若い衆を4人ほど連れてきてくれたんだけど、ある料理からどんどん出さないと追いつかないんだよ。なにしろ、5分かけて作った料理を10秒で食べちゃうからね(笑)」(手計さん)

 

 最後に山田監督が語る。

 

「大関に満足することなく、さらに上を目指してほしい。ただ僕は、引退後も期待しているんです。僕は生徒をスカウトするために全国をまわるんですが、彼が高3のときに一緒に連れていったんです。中高で相撲をやる場合、どういうコが向いているのか見る目があると思ったからです。将来、いい親方になりますよ」

 

 現在、埼玉栄高OBの力士は関取14人を含め、角界には42人という一大勢力を誇っている。だが、まだ横綱に昇進した力士はいない。多くの期待を背負い、新大関が今場所に挑む。

 

写真・舛元清香 コーディネート・金本光弘

( 週刊FLASH 2024年3月26日・4月2日合併号 )

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