先輩に対して失礼な物言いになりますが、でも正直に言っちゃいます。八代亜紀さんは、すごく……いえ、ものすごく、かわいらしい方なんです。
ーー化粧を落としたら、まるで別の人。
と、まるで都市伝説のようにあちこちで噂され、ご本人もネタのように話されていましたが、そんなことはまったくございません。真実はいつもひとつです。お化粧を落とされても、ほぼほぼ、あのまんま。素顔もチャーミングで、ピュアな心を持ち続けていらっしゃる八代さんです。
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先日ご一緒させていただいたときも、以前、八代さんがテレビで「UFOを見たのよ」と話していたのを思い出し、「見られたんですよね、UFOを」と言ったら、「本当よ」と、真顔でおっしゃられて。
いや、あの……。その真剣な眼差しに、わたしは2拍ほど遅れて「……はい」としかお返事することができませんでした。わたしと八代さんとでは、流れている時間が違うといいますか、空気が違うといいますか……モゴモゴモゴ。
八代さんも、そんなビミョーな空気を感じたんだと思います。「本当よ。信じてないんでしょう!? 本当に見たんだから」と、ぷ~っとほおを膨らませて、さらにトドメのひと言です。
「露天風呂に入っていたの。それでね、向こうから見られているような気がして、恥ずかしくなっちゃって」
うっすらとほおを染めながらそうおっしゃる八代さんは、本当にもう、ぎゅーっとハグしたくなっちゃうほどのかわいさでした。
普通年を重ねると、それなりに世渡りの術を身につけて、ずるいところのひとつや2つ、3つ……と、出てくるものですが、八代さんの場合は、それが皆無で。心は、ず~~~~っと一点のシミもない白一色。
八代さんと仕事をしたことがあるという人に、「八代亜紀さんってどんな人ですか?」という質問をしたら、きっと皆さん、同じ答えをされると思います。
お会いすると「今度、絵を描きに来てね!」と言っていただくんですけど、わたしの場合、なんてったって絵心はゼロというか、マイナスなもので(苦笑)。
「はい」とお返事はするんですけど、モゴモゴモゴ。毎回、八代先輩のお気持ちだけ、ありがたくいただいております。
一度だけ、その八代さんから直筆のお手紙を頂戴したことがありました。あれは……1年間の休養を経て、歌の世界に戻ってきてすぐのことです。
後輩のわたしを心配してくださる温かい言葉が綴られていて、最後はこんな言葉で結ばれていました。
「立ち位置を、一歩だけ後ろにしてごらんなさい。気持ちが楽になるわよ」
八代さんがおっしゃりたかったことをわたしなりに解釈するとーー。
一歩下がることで視野が広がり、肩の力が抜け、いい歌が歌えるようになるわよ……ということだったと思います。
なんてったって、わたしの場合、歌い始めるとついつい気合が入りすぎて、立ち位置どころか一歩前で歌っていたりするので、そういうときは八代さんの言葉を思い出して「だめだめ……」と、自分を戒めています。
WBCでダルビッシュ選手が、率先してチームの雰囲気を作っていたように、演歌の世界も、こうした素敵な先輩たちがいい雰囲気を作ってくださっています。
その想いを受け止め、後ろに続く人たちに繋いでいくのが、わたしたち後輩の役目。八代先輩、そうですよね。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋