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菅野美穂『ゆりあ先生の赤い糸』前代未聞のスーパーカオス展開を自然に見せる “父の呪い”

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.11.16 11:00 最終更新日:2023.11.16 11:00

菅野美穂『ゆりあ先生の赤い糸』前代未聞のスーパーカオス展開を自然に見せる “父の呪い”

『ゆりあ先生の赤い糸』会見で笑顔を見せる田中哲司と菅野美穂

 

 夫が昏睡状態の要介護者となり、夫の愛人彼氏と愛人彼女と同居する――そんな非現実的なトンデモ展開なのに、意外と自然に受け入れられ、物語に引き込まれていく。

 

 先週木曜に第4話まで放送されている菅野美穂主演の『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系)は、破天荒な道に突き進む主人公を上手に成立させているドラマだ。

 

 

 長年連れ添った夫・吾良(田中哲司)とは子供を授からなかったものの夫婦仲はよく、姑・節子(三田佳子)ともうまく同居していたゆりあ(菅野)。

 

 しかし、ある日、吾良が倒れたと病院から連絡を受け、人生が急転。吾良はくも膜下出血で、手術は成功するも意識は戻らず、眠ったままの夫を自宅で介護する生活が始まった。

 

 実は、夫には愛人彼氏・稟久(鈴鹿央士)がおり、また別に愛人彼女・みちる(松岡茉優)もいて、みちるには夫の子供かもしれない娘まで――。

 

 動揺しまくるゆりあだが、紆余曲折あったものの憎むべき相手である稟久とみちるを受け入れ、なんと吾良の介護のために共同生活を提案。第4話までに、ひとつ屋根の下に主人公、意識が戻らない夫、姑、愛人彼氏、愛人彼女、その娘が同居するという前代未聞な展開となっている。

 

■3つの要素が絡み合い不自然さがなくなる

 

 ドタバタコメディならばこんなトンデモ共同生活もアリだろうが、本作はコメディ要素を抑えた社会派ヒューマンドラマとなっている。それならば、なおのこと不自然になりそうなものだが、主人公のキャラクターを考えると、同居を提案するという流れもさほど違和感はなかった。

 

 つまり、それだけ主人公のキャラ設定と作り込まれた状況設定が秀逸だということである。

 

 ゆりあは、地味ながらとことん明るいタフな主婦で、愚直で男気あふれる大工の父親の影響で「かっこよく生きる」が座右の銘。

 

 そんなゆりあは、夫・吾良と愛人彼氏・稟久が真剣に愛し合っていたことを知り、吾良への情や幸せだった生活への未練はあるものの、離婚も選択肢に入れるようになっていく。

 

 ただ、自分がかっこ悪い生き方をしたくないという理由で、眠ったままの夫を見捨てることができず、責任を持って介護していくことを決意。とは言え、自宅介護にはお金も労力もかかるため、経済的には不安。1人で夫と姑の世話をするのは不可能という結論に至る。

 

 こうして利害関係の一致する愛人たちとの共同生活を思いつく――という経緯だった。

 

 つまり、「座右の銘に恥じない生き方」「離婚も視野に入れた旦那への諦念」「介護を前にした現実的な合理性」の3つの要素を複合して熟考した結果であり、愛人との同居というスーパーカオスな決断も、さほど不自然には映らない。それが、お見事なのだ。

 

 しかも、ゆりあのポジティブさだけの要素でないところが、このドラマが深く、重いところ。なぜなら、ゆりあの座右の銘「かっこよく生きようぜ!」は、口癖だった父親の影響なのだが、ゆりあを見ているとそれが “父の呪い” にも思えてしまうからだ。

 

■登場人物たちがそれぞれの幸せを見つけてほしい

 

 改めて冷静に考えれば、愛人たちとの同居なんてありえない。本来なら敵対するような関係性で、協力関係になんてならない相手。

 

 見方を変えれば、ゆりあはそんな相手にも協力要請しなくてはならない状況に追い込まれたということになる。

 

 愛人を2人も作って不倫していたゲス男なのだから、さっさと見捨てるという選択ができれば、ゆりあは1人で新たな人生をリスタートできていた可能性は十分にある。

 

 だが、夫を放り出すことができないため、カオスな決断をせざるをえなかった。そこまでゆりあを追いこんだのが「かっこよく生きる」という信念だとしたら、もはや “呪い” と考えてもおかしくはない。

 

 ――本作が最終的にどのような着地をする物語なのかは、まだわからない。ただ、その奇妙すぎる共同生活が “父の呪い” から始まったものだとしても、正妻と愛人という敵対関係を超越した強い絆が結ばれていってほしい。ひとつ屋根の下に集まった登場人物たちが、それぞれの幸せを見つけてくれるといいな、そう思えるドラマとなっている。

 

 今夜放送の第5話では、ゆりあと愛人彼女の長女がバレエ教室を通じて触れ合っていくエピソードが描かれる模様。愛人の娘との絆をハートフルに描く物語はなかなか稀有なため、期待したい。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

( SmartFLASH )

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