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阿部サダヲ『不適切にもほどがある!』昭和を笑うコメディかと思いきや…令和をくさすキレキレぶりが新鮮
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2024.02.02 11:00 最終更新日:2024.02.02 11:00
上質コメディドラマの皮をかぶった、キレキレの社会派ドラマだと感じた。
先週の1月26日(金)からスタートした阿部サダヲ主演、宮藤官九郎脚本の『不適切にもほどがある!』(TBS系、以下同)。
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阿部と宮藤は「大人計画」所属の盟友として知られるが、本作は2人の出世作とも言える2000年放送の『池袋ウエストゲートパーク』、2002年放送の『木更津キャッツアイ』も担当した、磯山晶氏がプロデューサーを務める。
同じく阿部がレギュラー出演し、宮藤脚本、磯山氏プロデュースで2005年に放送した『タイガー&ドラゴン』以来、19年ぶりにこの座組で制作されるドラマだ。
1986年に生きる昭和のおじさん・小川市郎(阿部)が、ひょんなことから2024年にタイムスリップ。市郎が、コンプライアンスなんてなかったに等しい昭和の価値観のまま、現代の令和で出会った人々に絡んでいく様子が楽しいコメディだ。
一方、市郎とは逆に、2024年から1986年に息子とともに自らタイムスリップしてきた社会学者(吉田羊)も登場するなど、意外と謎が散りばめられ、考察要素も多い第1話となっていた。
■多くの人が令和へ抱く “違和感” にズバッと斬り込む
前提として、令和の時代だとアウトな市郎の暴言や行動を、上手にギャグシーンとして昇華させている。
市郎は中学校の体育教師で野球部顧問なのだが、教室や職員室でもくもくと煙るほどタバコを吸いまくっているし、野球部の指導では練習中に水を飲むことを禁止したり連帯責任でケツバットしたりと、やりたい放題。
そういった市郎の言動の数々が、質のいいブラックコメディになっており、しっかり笑えておもしろい。
番組公式サイトでは《昭和のダメおやじの「不適切」発言が令和の停滞した空気をかき回す!》と記されているが、ただ昭和がヤバかったと笑うだけの物語ではない。
たとえば、令和の会社員・秋津(磯村勇斗)が、後輩の女子社員に「期待してるからがんばってね」と声をかけたところ、女子社員がプレッシャーを感じ、メンタルが折れたとして1カ月休職。応援しただけでパワハラ認定されてしまうエピソードがあった。
その話を、居酒屋の隣の席でたまたま聞いていた市郎が、こう啖呵を切る。
「がんばれって言われて会社休んじゃう部下が同情されてさ、がんばれって言った彼が責められるって、何か間違ってないかい?」
「期待して、期待に応えてさ、叱られて、励まされて、がんばって、そうやってかかわり合って強くなるのが人間じゃねぇの?」
こうしたセリフには、多くの人が現代社会に抱いている “違和感” に、ズバッと斬り込んでいく爽快さがあった。
■テロップをわざわざ2回も入れたのは現代への皮肉?
市郎の言動のすべてが正しいなんて微塵も思わないし、彼の暴言や暴力が肯定されていいわけでもない。
けれど逆に、令和の価値観のすべてが正しいとも思えない。
このドラマは昭和と令和、どちらが正しいのかを検証する物語ではなく、“どちらも正しい部分がある” ということを伝えたいのだろう。
だが、それは同時に、“どちらも異常な部分がある” ことを白日の下にさらす意味あいもある。
表向きは昭和の異常性をコメディにして笑う物語だと見せかけて、実は令和の異常性も浮き彫りにしていく。昭和のヤバい要素が改善された令和がハッピーというわけではなく、令和は令和で別種のヤバさが蔓延している時代だと気づかされるわけだ。
ちなみに、劇中で次の注意テロップが入っていた。
《この作品には 不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが 時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み 1986年当時の表現をあえて使用して放送します》
このテロップはまず冒頭で挿入されたのだが、開始20分ほどの段階でも念を押すようにもう一度挿入された。
……わざわざ2回も同じテロップを入れたのは、コンプライアンスでガチガチな今の時代への皮肉なのではないか。
もしかすると第2話以降、このテロップを入れる回数が3回、4回と増えていき、“注意テロップを頻繁に入れる” というギャグにする可能性もなきにしもあらず。
今夜放送の第2話で、昭和を笑うギャグのなかに、令和へのどんなツッコミが忍ばされているのか、楽しみで仕方ない。
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中