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中国はGEが育てた…元CEOが明かす「第2のホーム市場」の魅力
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.10.03 16:00 最終更新日:2022.10.03 16:00
ゼネラル・エレクトリック(GE)でCEOとして16年間働いたジェフ・イメルトが、巨大市場・中国の重要性を説く。
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GEはさまざまな場所で投資を行い、製品を売ってきたが、群を抜いて重要なのは中国だ。ほかにない大きな成長が期待できるし、市場はまもなくアメリカよりも大きくなるだろう。
GEの同業者の多くは、そして中国政府も、安価な中国人労働力を利用して、同国を世界の工場にしようとしていた。しかし、私は違った。私は、顧客あるいは巨大な市場として中国を評価していた。
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私たちが中国で工場を建てたのは、アジア全域をカバーするためであって、アメリカはそこに含まれていなかった。私は中国での成功が、GEのグローバルな競争力を高めると信じていた。部下が中国を恐れることがないように、同国を「GEの第2のホーム市場」と呼ぶようにした。
私が最初に中国を訪れたのは、GEプラスチックスのために働いていた1987年のことだ。私は香港に飛び、そこから広東省深圳に向かう飛行機に乗り込んだ。当時、最高指導者の鄧小平が経済改革を推し進めるために、深圳を「経済特区」に指定して、外国からの取引や投資に開放し、実験的に市場資本主義を奨励していた。
しかし、空港から車で外に出た私は、その街の未開発な様子に驚いてしまった。人々は小さな小屋に住み、トイレも外にあった。
私は、中国で最初のGE製造工場が建てられる予定だった南沙地区に向かった。その工場ではわずか数年後に、自動車やコンピュータあるいは電話などの製品に利用する硬性の熱可塑性プラスチックを年間2万トンも製造することになるのである。
建設用地として選んだサイトを視察したあと、私はセールスのために会合を行った。相手はテリー・ゴウ。台湾の国際電子機器メーカーで、のちにインテルのマザーボードもつくることになるフォックスコン(鴻海科技)の創業者だ。
フォックスコンが中国本土に建てる最初の工場はまもなくオープンするところで、彼らはGEのプラスチックペレットを主原料として必要としていた。2000年までに、フォックスコンはGEプラスチックスの世界最大の顧客になっていた。
それからの30年、私は毎年2回か3回は中国を訪れた。おそらく、ほかのどの西側CEOよりも、中国の成長を間近で見てきたと思う。中国は知的財産を盗む連中であふれているという見方が広まっているが、私の目には、中国人は自分自身をよりよくするためにたゆまない努力を続けていると映る。
中国の反体制派に関する報道は、個人の自由が抑圧されているという話を強調するが、私は何百万人もの農村出身者が都会へ移住して、巨大な中産階級を形成したのを目の当たりにしてきた。
同時に、エリートと呼ばれる人の数も増え、個人的な富を大いに蓄えた。ホテルを出ると、BMWやメルセデスのセダンが走る姿を目にすることが日に日に増えていった。中国は世界の工場から経済のスーパーパワーに変貌を遂げた。
GEヘルスケアのCEOだった1997年の夏、私は8月の休暇を利用して、中国の “二級” の20都市を訪問することにした。一級都市─「ビッグ4」などと呼ばれる北京、上海、広州、深圳─には何度も行ったことがあったので、今回は人口が400万から600万の小さめの都市、たとえば天津、成都、厦門、武漢などに行くことにしたのだ。
私は数百の病院を視察し、地元のリーダーや顧客に会った。そして、この旅で見たり聞いたりしたことから、こう悟った。GEは中国にもっと大々的に進出しなければならない、と。
「たとえ何が起ころうとも」と私は自分に、のちにほかの人にも言い聞かせた。「ここに投資しなければならない。中国こそが成長だ」。
事実がその考えを裏付けていた。膨大な数の人々が医療を必要とし、政府は医療を提供することを約束していた。面会した成都市長は私にこう言った。
「もちろん、私たちは医療を充実させるつもりです。それだけが人民を解放する方法なのです」
GEのMRIやCT機器にとって、中国が巨大市場であることは明らかだった。
旅の途中、中国でGEを率いるチー・チェンが言った。
「もし、私たちが中国でCTスキャナーをつくり、適正な価格を設定することができれば、アメリカの5倍の数を売ることが可能でしょう」
1999年、私たちは北京にCT工場を建てた。そしてまもなく、チェンの予言が現実になった。もし私がその日まで中国の大切さを理解していなかったとしても、この出来事で私は納得させられたことだろう。
CEOだった期間、私は30回ほど中国を訪れたが、いちばん印象に残っているのはCEOとして最初の訪問だ。2001年9月、9・11同時多発テロ事件の直後、私は北京で20人の幹部と会合を開いた。
香港に拠点を置く幹部のスティーブ・シュナイダーから、300もの新しい空港が中国で建設されているという話が出た。私は「中国の成長に合わせて、GEもこの国の需要を満たすために自らの立ち位置を改めなければならない」という考えをその会議から持ち帰った。
たとえばアメリカでは、2005年の時点で人口4万5000人ごとに1機の民間飛行機があったが、中国では160万人に1機に過ぎなかった。しかし、経済が発展すれば、中国におけるジェットエンジンの需要が爆発的に増えることは容易に想像できた。都市が大きくなるにつれ、電気需要も増えるし、輸送路も改善しなければならない。
消費者と事業主は金融サービスを求めるだろう。中国は、それらすべてを誰かから買わなければならない。GEがその誰かになることを、私は望んだ。
では、私たちはどうやって、望む形の進出を果たしたのか。
私たちはずっと前から、中国では人間関係が、とくに政府との関係が重要だと認識していた。1999年に訪問したとき、ジャック・ウェルチと江沢民国家主席が会合し、「中国CEOプログラム」と呼ばれるものを立ち上げた。アイデアは単純だ。GEが毎年、20人から25人の中国人CEOをアメリカのクロトンヴィルに招待する。参加者を選ぶのは中国共産党中央組織部。国のいわば人事部署として機能する機関で、中国の国家機関や国営企業の上級幹部を選ぶ任を担っていた。
選ばれたCEOたちがニューヨークに到着すると、私たちは彼らにリーダーシップセミナーを開き、GEの働き方を教えた。GEの最高幹部の全員が講演を行った。ジャック・ウェルチも例外ではない。中国人CEOたちは、アメリカを象徴するコングロマリットのインサイダーから学ぶことにとても熱心だった。もちろん、GEにも得るものがあった。中国の若きリーダーたちと関係を結ぶことができたのである。
つまり、ビジネスを進めるのに有利な社会ネットワークや影響力のある結びつき、要するにコネができたのだ。中国CEOプログラムはコネづくりの武器になった。私がCEOになるころまでに、クロトンヴィルで学んだ人々が中国全土に散らばっていた。そのうちの数人は、国のトップリーダーになっていた。
中国を訪問するたびに、私は彼らの多くに会った。彼らはGE的なやり方でビジネスを操縦した。
2000年代の初め、GEは国有企業の中国商用飛機がつくる地方用ジェット機ARJ21に用いるエンジンの製造契約を結んだ。中国にとって、ARJ21は民間航空事業への第一歩だった。とてもよくできた飛行機で、財政的にも中国政府からバックアップを受けていた。
ところが、彼らにはセールスやサービスの能力が欠けていて、飛行機を世界に売り込む仕組みももっていなかった。それからの10年、中国商用飛機は数機を売ることができたが、大成功にはほど遠かった。中国国内の航空会社でさえ、買おうとしなかったのだ。
GEのジェットエンジンをもっとたくさん売るには、彼らに飛行機需要を高める方法を教えなければならない。私はそう結論づけた。そこで、中国のパートナーといくつかのジョイントベンチャーを立ち上げて、それらの力を借りて地元市場に深く入り込むことにした。
そのようなことをすれば、技術が “借用” されて、ライバルの手駒になる恐れが必ず生じる。だが、そのリスクのほうが、中国で競争に参加しないリスクよりもはるかに小さく思えた。
結果として、GEは中国の航空部門で75%のシェアを占めるにいたった。これはアメリカ国内よりも高い数字だ。中国はアメリカとフランスの2カ国からのみ、航空機エンジンを買っている。私たちが地元の経済に投資したからこそ、実現した数字だ。
ジャック・ウェルチがCEOだった最後の10年、GEプラスチックスには中国石油天然気集団と提携して、10億ドルの樹脂プラントを建設するチャンスがあった。ただし、GEが化学的ノウハウ─GE独自のポリマーのレシピ─を中国に持ち込む必要があった。ジャックがそれを嫌い、提携を行わなかった。
「あいつらは私たちの技術を盗むに違いない!」と彼は言った。しかしその後、その技術は特許を失い、中国が私たちの協力なしに自分で工場を建てて樹脂を製造したのである。私たちは中国という巨大な市場を失ったのだ。これが、のちにGEプラスチックスを手放す理由の一つになった。
このときもまた、私は中国から教訓を得た。「世界最大のエンドユース市場でビジネスを行わなければ、おそらく生き残ることはできない」。この教訓は現在もまだ有効なままだ。
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以上、『GEのリーダーシップ ジェフ・イメルト回顧録』(ジェフ・イメルト著、長谷川圭訳、光文社)をもとに再構成しました。「世界最高のCEO」に3度選出されたジェフ・イメルトが自らの失敗をも赤裸々に綴った、初の回顧録。
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