■(2)言葉にすればストレスは抜ける
悩みや心配事を抱えている人はたくさんいます。私のTwitter調査(1066人を対象)では、およそ4人に3人(75.9%)が「悩みがある」と回答しました。
悩みがあると、当然ストレスはたまるし、「つらい」「苦しい」というネガティブ感情に支配されます。そんなストレスを簡単に抜く方法があります。それが「言語化」です。
自分の今の「つらい」「苦しい」という感情を言葉にして吐き出すだけ。それだけで、ストレスの大部分は解消します。ネガティブ感情のほとんどが抜けていくのです。
日本における自殺者の調査では、およそ3人に2人が誰にも相談せず、自殺をほのめかすこともなく、いきなり自ら命を絶っています。生きるか死ぬかという「人生最大の悩み」。それを他人に打ち明けることなく一人で抱え込み、自ら最悪の結論を下す。誰かに相談していれば、防げたかもしれないのに……。
そもそも日本人は、相談するのが苦手といえます。
「相手に心配をかけたくない」「こんなことを相談するのは恥ずかしい」「どうせ相談しても解決しない」など、いろいろな理由をつけて、ネガティブな感情に一人苛まれている。そして、悩みが深刻な人ほど、孤立し、さらに悩みを深めていくのです。
そんなネガティブ感情も、言葉にするだけで体の中から抜けていきます。それを私は「ガス抜き」と呼んでいます。
部屋にガスがたまってパンパンの状態になると、ちょっとした火種で引火し、爆発を起こしますね。そうなる前にガスを抜くことが必要。メンタルについても同じで、仕事や人間関係がつらくてストレスがたまっていても、適度にガス抜きしていれば、メンタル疾患や身体疾患へとつながる前になんとかなるのです。
言葉にするだけでストレスの大部分は抜ける。心理カウンセリングにおいても、これと同じことがなされています。つまり、薬も出さないし、積極的にアドバイスもしない代わりに、カウンセラーはクライアント(来談者)の話に共感して耳を傾ける(傾聴)。それだけで、クライアントは癒やされていくのです。
「言語化」とは心理学の用語で、心の中のモヤモヤを言葉にして表現することです。つまり、言語化は心理学において確立された、基本的な癒やしのシステムなのです。
■(3)言葉にしないと伝わらない
誰かに対して、「どうして、私のことをわかってくれないの」と思う人は多いでしょう。もし、あなたがその一人だとしたら、あなた自身、自分の気持ちを相手に「言葉で」伝えたかどうかを思い起こしてください。おそらく伝えていないか、あるいは、伝えていたとしても不十分だったのではないでしょうか。
テレパシーのような超能力でも持っていない限り、相手が何を考えているか、どう思っているのかを正確に理解することはできません。日本には「以心伝心」という言葉がありますが、コミュニケーションを苦手とする人が増えている昨今、自分の考えや思い、感情は言葉にしないと伝わらないと考えたほうがいいでしょう。
「言葉にしないと伝わらない」。言われてみれば当たり前のことですが、実際に職場の上司と部下、親子、夫婦、恋人同士、友人同士、医師と患者など、すべての人間関係の問題は、「言葉不足」「コミュニケーション不足」が原因と言っても過言ではありません。
メンタル疾患で通院している人からも、私のYouTubeチャンネルに多くの質問が送られてきます。そして、そのうちの2~3割は「主治医に聞いてください」「主治医とよく相談してください」で解決します。
これは、逆に考えると「つらい」「苦しい」「病気や薬に関する疑問、不安」を抱えながらも主治医に相談しない人がかなりの数にのぼるということです。
それではメンタル疾患が改善することはないでしょう。医師は超能力者ではありません。やはり「言葉にしないと伝わらない」のです。
言葉にして初めて、自分の気持ちや考えが相手に伝わり、理解され、共感されます。このとき、癒やしのシステムが発動するのです。
言語化によって悩みの9割は解消します。ストレスやネガティブ感情の9割も消えていきます。
現在、悩みやストレスを抱えている人は、拙者『言語化の魔力』を通して言葉が持つ力のすごさを知り、毎日を楽しく快適に過ごす手助けにしてください。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし