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樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』「やりたくないこと」「面倒くさいこと」をやる方法

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.09.05 06:00 最終更新日:2022.09.05 06:00

樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』「やりたくないこと」「面倒くさいこと」をやる方法

効果がないときは時間、量を「追加」してみる

 

 7月15日、ユネスコ無形文化遺産に登録されている「佐原の大祭」を見に、千葉県香取市まで行ってきました。巨大な人形がのった山車は、高さ7~8m、重さ4tにも及びます。その山車が、手が届くほどの近さで目の前を通り過ぎる。すごい迫力です。なかでも、曲がり角で山車を360度方向転換させる「のの字廻し」は見ものでした。

 

 10人ほどの男衆が全力で山車を回転させようとしても、最初はびくともしません。そこで、まわりの男衆が何人も駆け寄り、押す力を「追加」します。そして、掛け声とともに力とタイミングを合わせることで、ようやく山車はズズズズと回転し始めました。一度動き始めると車輪は地面とこすれながらも、勢いを持って方向転換していくのです。

 

 

 10人だと動かなかったものが、15人だと動きだす。これは私たちの生活やビジネスにおいても見られる場面です。つまり「追加」することで、物事が加速し、うまくいく。当たり前のことのように思えますが、困った事態に直面したとき、この「追加」の力を活用する人は意外に多くありません。

 

 そこで今回は、この「追加」の考え方、そして物理の「摩擦係数」の概念をもとに、「やりたくないこと」「面倒くさいこと」のやり方について考えてみます。

 

■効果がないと、すぐに見切ってしまう……

 

 たとえば、私が抗うつ薬を処方している患者さんのなかには、「2カ月飲み続けているけど、ちっとも症状がよくなりません」と、途中で通院をやめてしまう人がけっこういます。「薬の回数や量を増やしましょうか」と提案をする前に、いきなり来なくなるのです。ちなみに、初診から3カ月で精神科に来なくなる確率は、50%からそれ以上といわれています。

 

 2カ月で効果が表われないのなら、もう1カ月「追加」で服用してみる(時間、期間の「追加」)。あるいは、2錠で効果がないのなら3錠に増やしてみる(量の「追加」)。現在処方されている薬に別系統の薬を「追加」する。このように、薬を「追加」することで病状を改善させていく方法はいくつもあるのですが、早い段階で見切ってしまうのです。

 

■遺伝子のスイッチの切り替えには、2~3カ月かかる

 

 私はメンタルと体の健康に絶大な効果がある「朝散歩」をおすすめしています。当連載でも、何度も紹介していますね。朝起きてから1時間以内、15分程度の速足の散歩で、セロトニンの活性化、体内時計のリセットができて、快適な一日をスタートできるというものです。

 

「朝散歩で15kgやせました」「うつ症状が改善しました」という喜びのメールを多数いただくのですが、一方で「1カ月続けていますがまったく効果がありません!」といった声も寄せられます。

 

 1カ月で効果が出ないのなら、もう1カ月「追加」、それで効果がなければ、もう1カ月「追加」して、3カ月は続けてほしいのです。生活習慣を変えてから「遺伝子のスイッチ」の “オンとオフ” が切り替わるまでに、2~3カ月はかかるといわれます。遺伝子のスイッチが “オン” になるということは、新しくタンパク質の合成が始まるということ。わかりやすくいえば、物理的に体が変化したということです。

 

■「静止摩擦係数の論理」

 

 朝散歩については、「心身の健康にいいことはわかっているんだけど、最初の一歩が踏み出せません」「毎朝、今日から始めようと思いながら、ズルズルと1カ月たってしまいました」といった話もよく聞きます。

 

 高校の理科で「摩擦係数」について習ったのを覚えているでしょうか。簡単にいうと、「接触面に働く摩擦力と垂直に押す力との比」のこと。摩擦係数には、静止摩擦係数(静止している物体を動かすときの摩擦係数)、動摩擦係数(動いている物体を動かし続けるときの摩擦係数)があり、もちろん静止摩擦係数のほうが、動摩擦係数よりも大きな数値になります。

 

 摩擦係数の考え方でいうと、朝散歩を始められないという人は、静止している物体(体)を動かすわけですから、摩擦係数が大きい状態にあり(静止摩擦係数)、すでに朝散歩をしている人は摩擦係数が小さい状態にあります(動摩擦係数)。ですから、朝散歩を習慣にしている人は、ふだん15分歩いているのを、20分、30分と時間を増やすことは比較的簡単です。

 

 この「摩擦係数」の考え方は、朝散歩にかぎらず、私たちの生活やビジネスなど、さまざまな局面にあてはめることができます。とくに、「やりたくないこと」「面倒くさいこと」を始めるときに適用できます。

 

 ダイエットや禁煙は始めるまでが大変。でも、頑張って3カ月続けると、それが習慣化したという話はよくあります。子供の宿題も同じでしょう。始めるまでに時間がかかるけども、取りかかると1時間くらい続けて勉強ができたりするものです。

 

 ビジネスの場合だと、たとえば会社のプロジェクト。新しいプロジェクトをゼロから立ち上げるのは、マンパワーや多額の資金が必要で、ハードルは高くなります。一方、すでに軌道に乗っているプロジェクトをまわしていくのは、そこまでの労力やお金はかかりません。

 

“動き始めるまでが大変、動きだしたらけっこうラク” 。これを「静止摩擦係数の論理」と呼びましょう。これをふだんから意識しておくだけで、勉強や仕事に対する心構えができます。「ああ、仕事したくない……。でも、静止摩擦係数の論理にしたがって、とりあえず5分のつもりで始めれば、あとはスイスイ捗るはず」と、自分を励ますことができるでしょう。

( 週刊FLASH 2022年9月13日号 )

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