■根性や気合ではどうにもならない
ある患者さんのケースです。
「メンタルの調子が悪いので、何日か有給休暇をとらせてください」と上司に相談したところ、こんな反応が返ってきたそうです。
「ただでさえ人手が足りないこの時期に休むとはどういうことか! 絶対に認められない! 気力でなんとかしろ! 精神がたるんでるから、病気になるんだ」
調子が悪いのに休めない。結果として、この患者さんはうつ病を悪化させてしまいました。
この連載を読んできた人には、もうおわかりでしょうが、うつ病は「根性がないから」「精神がたるんでいるから」なる病気ではありません。セロトニンやノルアドレナリンといった脳内物質の枯渇がおもな原因です。
根性や気合でセロトニンを増やすことなどできないというのに、世の中には理不尽な「昭和の根性論」をふりかざす、パワハラ上司はまだまだ多く存在しているのです。
うつになる前段階の「前うつ」「脳疲労」の状態にあるなら、きちんと休息をとり、睡眠、運動、朝散歩などで生活習慣を整えれば、かなり改善します。
しかし、いったんうつを悪化させてしまうと、薬物療法を施されても、治るまでに何カ月、あるいは何年もかかるのです。
調子が悪ければ、仕事を休んで、しっかりと休息すればメンタルは改善する! これが常識となれば、「国会議員なのに休職とは無責任!」といった、見当違いな意見は出てこないはずです。
休職することが無責任だとするならば、どうすればいいのでしょう。 「死ぬまで働け!」ということでしょうか。そういう考えの人は、仮に議員辞職したとしても、「当選したばかりで辞職とは無責任だ」とでも言うのかもしれません。
あるいは、もし自分の家族がうつになったら、家族に対してどう言うのでしょう。就職1年めでうつになって、仕事に行けなくなった。仕事を休みたい。仕事を辞めたい……。そういう子供に対し「就職したばかりで仕事を辞めるとは、無責任極まりない。根性で乗り切れ! 気合を入れ直せ!」と言うのでしょうか。
■博士がうつ病を公表した意味
困ったことがあれば誰かに相談する。メンタルが疲れていると感じたら会社を休む。そうすると、「つらい」「苦しい」状態から少しずつ立ち直っていきます。
しかし、今の日本ではなかなかそれができません。「根性がないから」「精神がたるんでいるから」そうなると思っている人たちが、少なからず存在するからです。
そんな人たちの考えが変わり、メンタル疾患に対する偏見がなくなれば、私たちはもっと楽に生きられるはずです。自殺する人の数も激減するでしょう。
そのためにできる第一歩は、まずあなた自身が、メンタル疾患に対する偏見をなくすことです。
今回、自らの「うつ」を世間に公表した水道橋議員の勇気はすごいと思います。これをきっかけに、メンタル疾患に対する日本人の意識が多少なりとも改善するのなら、水道橋氏が国会議員になった意味は、十分にあるはずです。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし