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【棋王戦】藤井五冠が2連勝でタイトル奪取まであと一歩…10連覇中の渡辺棋王を止めるか

ライフ・マネー 投稿日:2023.02.20 16:07FLASH編集部

【棋王戦】藤井五冠が2連勝でタイトル奪取まであと一歩…10連覇中の渡辺棋王を止めるか

132手で制した藤井聡太五冠(写真提供/日本将棋連盟)

 

 渡辺明棋王が11連覇を達成するか。藤井聡太五冠が史上最年少で六冠となるのか。

 

 渡辺棋王に藤井五冠が挑戦する第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負。第2局は2月18日、石川県金沢市でおこなわれた。結果は132手で藤井が勝利。スコアは藤井の2連勝となり、棋王位奪取まであと1勝と迫った。

 

 藤井は竜王、王位、叡王、王将、棋聖を持ち、序列1位。一方の渡辺は、棋王のほかに名人を持ち序列2位である。今シリーズは将棋界の頂上決戦であり、そのまま将棋史上で語り継がれるだろう。

 

 

 その上で本局は、観戦する者の手に汗を握らせる、白熱した好局だった。

 

 作戦巧者の渡辺が先手番で選んだのは、角換わり腰掛銀だった。トップクラスの間では現在、もっともメジャーな戦法といってもよく、両者ともに研究十分の形だ。

 

 41手め。渡辺が金を寄った手が新工夫。46手めまであっという間に進み、そこで渡辺の予定からははずれ、長考に入った。

 

渡辺「その後は予定なかったんですけど。それでどれぐらい均衡が取れるというか。そういう感じで、もともとは考えていたんで」

 

 考えること1時間29分。渡辺は2筋の歩を前に進めた。いちばん自然に見える手だ。

 

渡辺「あんまりほかがなあ……」

 

 感想戦で渡辺はそう苦笑した。ほかの筋の歩を突っかけると、取られて指しすぎになったり、無視していて抜かれるかもしれない。いろいろな変化を検討し、長考した上で、もっとも普通に見える手が選ばれることはしばしばある。

 

 渡辺は飛車を前線に飛び出し、仕掛けていった。

 

渡辺「行くと激しくなるんですけど、代案も難しいんで。ちょっとあんまり成算はなかったんですけど。決戦に踏み込むのはやむを得ないかなと」

 

 対して、藤井は飛び出してきた相手の飛車を攻撃目標とし、角を打って反撃する。

 

藤井「1三角から激しい展開になって。かなり判断の難しい局面なのかなと思って指していました」

 

 局面は一気に激流のような変化に入った。渡辺は玉を中段にひっぱり出され、飛車を渡す代償に、少し駒得をしている。

 

 午後の戦いが始まった直後の61手め。渡辺はじっと銀を引いて自陣の整備をはかった。そこで藤井が長考に沈む。飛車を相手陣に打つか。それとも自陣中段に打つか。人間の目に自然に見えるのは前者。藤井が1時間49分を使って選択したのもまた前者だった。局後、藤井からは反省の言葉が聞かれた。

 

藤井「ちょっと失敗してしまったかなと思っていました。結果的によくないほうを選んでしまったのかなという気がします」

 

 形勢はほぼ互角。両者は交互に、重要な選択を迫られる。

 

 67手め。渡辺は攻める順を見送り、受けに回った。

 

渡辺「(歩を打つ攻めも)ある手なんですけど。ちょっと足りないかなと思ったんで。ちょっと粘り気味にやろうかなっていう感じでしたね」

 

 進んで、形勢は藤井がわずかにリードしたとも見られた。しかし、渡辺も自玉の周りに金銀5枚をつけ、均衡を保って離されない。藤井もそう自信は持てない進行だったようだ。

 

藤井「(渡辺陣の)5七玉型っていうのがやはり非常に珍しい形で。なんというか、こちらがその弱点を突けるか。あるいは手厚くされてしまうのか。かなりきわどいところかなと思ったんですけど。本譜はうまく手厚い形にされてしまったので。そのあたりもっと、工夫しなければいけなかったのかなというふうに思います」

 

 73手め。渡辺は龍取りに歩を打つ。藤井は龍を切っていくか。それともじっと逃げるか。AIが評価するのは前者。藤井は9分考えて後者を選んだ。ここは渡辺の第一感も同様だった。

 

 進んで79手め、渡辺はじっと金を立って、藤井の龍にプレッシャーをかける。

 

渡辺「ちょっと変な手だけどしょうがない」

 

 しかし、このあたりは渡辺が差を詰めた場面だった。

 

藤井「7八金と立たれるのが見えていない手だったので。そこまで進むとこちらの龍がかなり狭い形になってしまって。ちょっとやっぱり苦しいのかなと思っていました」

 

 渡辺は切り合ってこられる順を読んでいた。しかし、藤井は自陣に龍を引きつけて、息長く指す方針を選んだ。

 

渡辺「そうか、龍引くのか」

 

藤井「(切り合いの順は)足りないかなと思って」

 

渡辺「そうですよね」

 

 形勢は混沌としてきたようにも見えた。しかし、結果的に本局では、藤井の勝負をあせらない姿勢が、勝利につながったようだ。

 

藤井「龍を(自陣に)引いたあたりは、なんというか、駒損になってしまって苦しいと思っていたので。決め手を与えないように粘れるかどうかかな、と思っていました」

 

 藤井がそう感じる一方、渡辺もまた棋勢好転を感じていた。藤井が90手め、自陣を龍に引いたところで持ち時間5時間のうち、残りは渡辺15分、藤井10分。両者ともにほとんど時間が残されていないまま、まだ先の長い終盤戦に入った。

 

 91手め。渡辺は5分考えて桂を打つ。反撃を見据えた手だ。局後、渡辺は次のように反省した。

 

渡辺「午後に入ってから、すごい難しい将棋だったんですけど。そうですね。なんか局面が一段落したところで、ちょっと一気に攻めていったのが結果的にまずかったかなというか。もうちょっとなんか、息長く指す……。そうですね。ちょっと攻めていったのが、よくなかったかなとは思いました」

 

 渡辺が終局後に更新したTwitterによれば、攻めの桂打ちに代え、玉を三段目から二段目に引いておくのが正着だったようだ。感想戦では次のようにつぶやいている。

 

渡辺「大人の対応、大人の姿勢で指すんだったかな」

 

 一手我慢して進んだ先には、渡辺からの反撃も見えている。そこにチャンスもありそうだ。

 

渡辺「(検討で反撃手を指しながら)なんかまあ、適当に攻めるか。なんかもう時間ないし、こういう感じで適当攻めになりますね。最終的には」

 

 笑って応じる藤井。本局の最終盤は、指(ゆび)がいいほうに行ったほうが勝つ「指運(ゆびうん)」の勝負だったかもしれない。

 

 92手め。藤井は自陣から角を打つ。渡辺玉をにらむ好位置だ。対して渡辺も、桂の犠打で角筋を遮断して手番を得る。藤井が少しリードするも、勝敗はまだわからない。

 

 97手め。渡辺は角を打って王手をする。対して藤井は、逆サイドに玉を逃げ出した。

 

渡辺「(角を打つ王手に代え)まだ単に(桂を)跳ねるんだった? 本譜は(相手に)玉上がられてひどい」

 

 ここで少し差が広がったようだ。

 

藤井「6三玉と逃げたところで少し自玉が安全になったので。先ほどの局面と比べると好転したのかなとは思っていたんですけど。そのあとも最後までわからなかったです」

 

 渡辺は飛車を手にして藤井陣に打ち込む。対して105手め。藤井は自陣に、渡辺玉をにらむ2枚目の角を据えた。結果的にはこの2枚角が、渡辺玉の死命を制することになる。

 

 観戦者に見えているAIの判定では藤井勝勢。しかし、どうやっても勝ちという差ではない。藤井が一手でも誤れば途端に逆転する。

 

 119手め。渡辺は香を打って王手をする。藤井は玉を上がってかわした。危ないようだが、これで助かっている。

 

 手番は藤井に回った。藤井は詰将棋の収束のように、鮮やかに2枚の角を捨てる。

 

 132手め。藤井は決め手の桂を打った。盤面中央の渡辺玉は、左右どちらに逃げても、ぴったりつかまっている。

 

 終局図には両対局者の技量と、心意気が表される。熱戦の余韻を後世に伝える終局図としては、ここがいちばん美しい。桂打ちの王手を見て渡辺が投了を告げ、藤井の勝ちが決まった。

 

 棋王10連覇中の渡辺は、これでカド番に追い込まれた。

 

 タイトル戦で10連覇以上を達成している棋士は、渡辺のほかに大山康晴15世名人、羽生善治九段しかいない。その事実を見れば、いかにその連覇が至難かということがわかる。棋王戦では羽生の12連覇が最高記録だ。

 

 2011年。王座19連覇中だった羽生王座に五番勝負で挑戦し、3連勝して連覇にピリオドを打ったのは、渡辺だった。立場がスライドして、歴史は繰り返すこともあるのだろうか。

 

 藤井は本局に至るまで、後手番で3連敗をしていた。史上最高勝率で勝ち進んでいる藤井でなければトピックにもならないようなことだ。本局の勝利でその「連敗」も止まったことになる。

 

 第3局の先手番は藤井。藤井は現在、先手番で24連勝中だ。ここで決めることができるだろうか。

 

 第3局は3月5日におこなわれる。両対局者は次のように抱負を語った。

 

藤井「スコアはあまり意識せずに、また全力を尽くして指せればと思います」

 

渡辺「目の前の一局というか、そういう気持ちでやっていければと思います」

 

文・相川清英

( SmartFLASH )

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