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羽生九段が勝利した王将戦七番勝負 開幕前に語っていた「ちょっと複雑な心境」勝者が受ける「罰ゲーム」も
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2023.01.23 18:30 最終更新日:2023.01.23 18:30
藤井聡太王将(20)に羽生善治九段(52)が挑戦する、王将戦七番勝負。第2局は101手で羽生が勝って、1勝1敗のタイとなった。
「ちょっとほっとしてます」
終局後、羽生はそう語っていた。羽生を応援するファンの多くもまた、同じ気持ちだったかもしれない。
開幕前、主催紙によるインタビューで、羽生は次のように語っていた。
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「知り合いの人から、お祝いのメッセージとか、それをかなりたくさんいただきました。いままでは、タイトル取ってから言われることが多かったんですけど(笑)。挑戦者になって、こんなに言われたのは初めてです(笑)。『おめでとうございます』って言われても、いやまだこれから始まるところなので。いやまだ、本当におめでたいのかな、というか。ちょっと複雑な心境です(笑)」
4勝ではなくまだ1勝をあげた段階で、羽生に「おめでとうございます」というのは早いかもしれない。それでもSNS上には、そうしたファンのお祝いの声があふれかえっていた。
藤井がタイトル戦の七番勝負を闘うのは、これが7回めだ。過去6回のうち、3回は4‐0のストレート勝ち。トータルの星取りは、今回の羽生戦の黒星を含めても25勝5敗(勝率0.833)。依然、驚異の成績であることにかわりはない。タイトル戦敗退なしで2023年度中の全八冠制覇も可能性としてささやかれるようになった。
そうした状況をふまえて今期王将戦は「藤井圧勝ではないか」という声が多く聞かれていた。第1局も藤井がおそるべき強さを見せて、藤井の勝ちだった。
そこへ第2局で、羽生が1勝を返した意味は大きい。藤井は並み居る強敵を相手に、公式戦で10連勝中だった。また羽生に対しても4連勝中。そうした流れを、羽生はここでいったん止めたことになる。
羽生は長いキャリアを通じ、タイトル戦の七番勝負で4-0のストレート勝ちを11回も演じている。1996年2月、王将戦七番勝負を制して史上初の七冠を達成したときも4-0だった。
一方で0-4のストレート負けは1度しかない。ともかくも、まずは今期七番勝負において、羽生が0-4のストレートで負ける可能性はなくなった。
王将戦が創設された当初は「指し込み」という残酷な規定が設けられており、実際に施行されていた。途中で3番差をつけられた側は敗退が決まり、さらに以降の対局は「半香」(平手と香落を1局ずつ交互)に指し込まれて、最後の7局まで指し続けなければならない。香落番では下手(したて)の立場となり、相手に香を落とされ「駒落」のハンディをつけられるのは、敗者に鞭を打つ、真の意味での「罰ゲーム」だったといえる。
木村義雄、大山康晴といった将棋史を代表する大棋士も、名人在位中、八段の升田幸三に指し込まれるという大事件が起こった。大山の場合は実際に対局をして、香落番でも敗れる屈辱を味わった。
「指し込み」については、あまりの過酷さにのちには4番差に改められ、実際に香落が指されることはなくなった。代わりに現在の王将戦では、将棋ファンの間で「勝者罰ゲーム」とも言われる、面白いシチュエーションでの撮影が名物となった。本局の勝者である羽生は、たこ焼き店の店主を演じていた。将棋界のレジェンドとなった現在でも、こうした注文に屈託なく応じるあたりが、羽生の変わらぬ偉大なところだ。
第3局はさほど間をおかず、1月28日、29日におこなわれる。今度の先手番は藤井だ。藤井は今年度先手番で1回しか負けておらず、先手番に限れば21連勝中。そこに後手の羽生がどのような作戦をぶつけてくるのか。もし羽生が先手番を「ブレイク」して勝つことになれば、ファンからの「おめでとうございます」の声は、さらに大きくなるかもしれない。
文・松本博文
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