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ナイフとフォークを使う西洋料理は「アラブ」発祥だった
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2017.08.27 11:00 最終更新日:2017.08.27 11:00
『アラビアン・ナイト』を生んだアラブの人たちのことを意外と日本人は知りません。彼らは、気さくで明るくてエネルギッシュ。荒っぽいところもあるけれど人情味もすごくあります。
アラブの人たちは遊牧民です。遊牧民には商人が多い。彼らの暮らしは、商売することで成り立っています。イスラム教は「商人の宗教」と言われていますが、『アラビアン・ナイト』にも農民はあまり出てきません。まさに商人の世界が中心です。
『船乗りシンドバッドの物語』は、海の商人の冒険の物語です。当時のアラブ人は、危険をおかしながら海を渡って、インドネシアやインドといった国々で商売をしていたのです。
なぜインドネシアがイスラム圏なのかと、不思議に思う人もいるようですが、理由は簡単で、昔アラブ人がたくさんきたからです。
彼らが商売をして、いろいろなものを持ってきたので、現地の人々が勝手に「これはええな」と思ってイスラム教徒になった。こうしてアラブの人たちは、グローバルなネットワークを築いたのです。
知っておいてもらいたいのは、アラブがヨーロッパを介して世界にものすごく大きな影響を与えたということです。意外とそのことが知られていません。いくつかの例を紹介しましょう。
まずは料理です。
現在では洗練された料理として絶対的な地位を誇るフランス料理が、もとはフィレンツェのメディチ家の料理だということはよく知られています。
メディチ家のカトリーヌがフランス王フランソワ1世の息子アンリに嫁ぐことが決まったとき、カトリーヌは片田舎のパリには行きたくないと渋った。そこで叔父のローマ教皇クレメンス7世は、一緒に料理人を連れて行かせました。フィレンツェで生まれた洗練された料理がこのときフランスに伝わったのです。
それまでフランスでは料理を手づかみで食べていたのですが、ナイフとフォークを使うようになったのもカトリーヌの結婚がきっかけです。
このフィレンツェのメディチ家の料理は、もとはイスラム帝国アッバース朝の宮廷料理でした。アラブの世界がもっとも勢いのあった『アラビアン・ナイト』の時代のバグダードの洗練された宮廷料理が、イタリア経由でフランスに入ったということです。
砂糖菓子もアラブからメディチ家に入り、カトリーヌとともにフランスに渡ります。アラブの社会では、砂糖をいろいろなバリエーションで食べていました。僕たちが食べているシャーベットはアラブ世界からダマスカスを通じてヨーロッパに伝わりました。
つまり、おいしいごはんは、実はアラブ世界からきているということです。
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以上、出口治明氏の新刊『教養は児童書で学べ』(光文社新書)から引用しました。社会のルール、ファクトの重要性、大人の本音と建前、ビジネスに必要な教養、世の中の渡り方まで――大切なことは、すべて児童書が教えてくれた。珠玉の児童書10冊をじっくり読み解く出口流読書論の集大成。