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大ブームの「完全食」の落とし穴…「一日に粉末2杯だけ」の男性も、医師は「免疫機能」「口内環境」へのリスクも指摘
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2024.07.12 06:00 最終更新日:2024.07.12 16:18
いつもの商品を手に取ったら、ちょっと割高だった経験はないだろうか。
よく見ると、パッケージに「完全~」の文字。メーカーはけっして推奨していないのに、3食そればかり食べてしまう人が増えているというが――。
「朝10時ごろに起きて、『Huel』を水に溶かし、1杯飲みます。その後、18時くらいまで仕事をして、もう1杯。一日の食事は、基本的にこれだけです」
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そう語るのは、埼玉県在住の野々部守さん(34)。「のったん」のハンドルネームでプロゲーマー、YouTuberとして活躍する野々部さんは、もう4カ月近くもの間、ほぼ粉末タイプの完全食(完全栄養食)「Huel」だけで生活している。
「この生活になってから、70kg近くあった体重が65kgを切るようになりました。1、2分ですみますし、空腹感も、食後に眠くなることもありません。もともとはゲームや動画編集の時間を確保するために始めた『完全食生活』ですが、自分には合っていると思います。これからも続けていきたいですね」
いま、完全食の人気が広がっている。完全食とは、厚生労働省が「日本人の食事摂取基準」として設定した33栄養素を、効率的に摂取できることをウリにした食品のこと。
先駆けたのは、野々部さんが愛飲する「Huel」のような粉末プロテインタイプ、ベースフード社が展開するパンやパスタタイプ。
2022年には、日清食品が「完全メシ」シリーズを発売し、現在は焼そば「U.F.O.」や「カレーメシ」などおなじみの商品を“完全食化”しているほか、おもに通販で、パスタやお好み焼きなどの冷凍食品も展開している。
その後も大手各社の参入が続き、野々部さんのように完全食だけで食事を完結させる人が増えている。
「ブレインケアクリニック」の管理栄養士・水流琴音(つることね)氏は最近、栄養相談の際に起こった変化を語る。
「患者さまから、完全食について質問されることが増えているのです。私は、日常の食事の補助的な役割として、完全食を利用するのはいいと思います。たとえば、忙しくて昼食の時間を確保できない方が、一食をジャンクフードから完全食に置き換えるのは、栄養的にプラスです」
本誌は、完全食としておなじみの商品を調査。50~64歳の男性(仕事での移動、スポーツなどの身体活動レベルは中程度)の栄養摂取基準の3分の1(一食換算)を100%とし、人気の完全食に含まれる栄養素と比較したところ、どの完全食もバランスよく栄養が配分されているように思われたが……。
「たしかに、数字を見れば完全食の栄養は豊富で、基準値を満たしているものも多数あります。しかし、栄養素の必要量には個人差がありますし、同じ人間でも、たとえば仕事で大きなストレスがかかれば、必要なビタミンの量は増加するのです」(水流氏)
基準値はあくまで一般的な目安として考えるべきだという水流氏。ほかにも、気になったところがあるという。
「食品表示上、『即席麺』や『即席カップライス』に分類されているものは、“味つけが濃い”と感じる方が多いようです。ビタミンやミネラルには苦みやエグみが強いものがあり、それを打ち消して美味しく食べられるようにメーカーさんは工夫をしているのでしょう」(同前)
たとえば、日清食品の「完全メシ カレーメシ」の塩分相当量は2.7gで、スマートミール基準(「健康な食事・食環境」認証制度)の塩分量3.0g未満(450kcal~650kcal未満)をクリアしている。
「たしかに基準は下回っていますが、本来、塩分は味噌汁やおかずなど、いろんなものを食べて、合わせて2~3gになるべきものです。それをギュッと一杯に凝縮しているために、食べると味が濃く感じてしまうのだと思います」
一食の代替として完全食は活用できると語る水流氏だが、野々部さんのように、すべてを完全食ですませようとする人は多い。
「食べないと死ぬから食べているんです。錠剤で健康でいられるなら、それでいいって思っています」(野々部さん)
だが、五良会クリニック白金高輪理事長の五藤良将医師は、そんな「完全食生活」にこう警鐘を鳴らす。
「日本には四季があり、旬の食材には、その季節に必要な栄養素が豊富に含まれています。夏野菜には水分が多く、利尿作用があるカリウムが豊富で、体を冷やしむくみを取る効果があります。冬野菜にはビタミンが豊富に含まれ、体を温める作用があります。これらを食べることで、体は季節に順応し、免疫力の向上や病気の予防が期待できます。『完全食生活』には、そうした視点が欠けています」
完全食のなかで一大ジャンルを築いている粉末プロテインタイプはどうか。オレンジ歯科院長の村上明日香歯科医が指摘する。
「液状や、水に溶かす粉末状の完全食ばかりの食事をしていると、咀嚼筋の筋力が低下し、咀嚼機能の衰えが生じる可能性があります。その結果、顎が細くなり、顎関節症を引き起こすこともありえます。また、唾液の分泌が減少すれば、虫歯や歯周病のリスクが増加します」(村上歯科医)
もっとも、メーカーは3食すべてを完全食に置き換えることを推奨しているわけではない。「完全食TOKYO」は「1食置き換えダイエット」を提唱し、日清食品の「完全メシ」もサイトに《食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを》と明記している。
だが、「完全食」という言葉の甘い響きは、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する層の心を掴んで離さない。
「友人に誘われたときくらいは外食しますが、ぜんぜん飽きがこないので、しばらく完全食生活を続けると思います。結婚とかしたら、相手と食生活が合わなそうで、心配ですけどね(笑)」(野々部さん)
赤ちゃんにとっての母乳のような、真の「完全食」。残念ながら、現状は存在しないようだ。
【コンビニに進出中! あの“おなじみ商品”の「完全食」を実食調査】
■inゼリー完全栄養(森永製菓)/「10秒チャージ」に最高峰!
お手軽感はNo.1。わずか10秒で1食分の栄養素が摂取できるゼリー飲料。カラメルプリン味というが、キャップを開けるとややケミカルな香り。味や口当たりはまさに「プリン」で美味しかったが、後味はまたもケミカル。コンビニで397円(入手価格、税込み、以下同)。
「本製品はビタミンやミネラルが多く含まれ、不足しがちなたんぱく質も22.7g摂れます。ただ、砂糖や水あめ、人工甘味料などが比較的多く使われており、特に空腹時に飲む場合は、血糖値の急上昇が懸念されます。『プリン味』ですし、デザート感覚で活用するのがいいかもしれませんね」(管理栄養士・水流琴音氏)
■BASE BREAD(ベースフード)/日本のブームの火つけ役
一番人気はチョコレート。しっとり感は少ないが、ふつうに美味しい。焼き菓子のBASE Cookies(197円)のココアは、洋菓子店レベルの美味しさ。通販で買ったBASE PASTA(8袋4060円)は、麺自体の塩味が強く、香りのない蕎麦のようでパスタ感は乏しい。
「一般的なパンは、マーガリンやショートニングなどのトランス脂肪酸といわれる油や、血糖値の急上昇に関わる砂糖や小麦を使用していますが、本品は全粒粉の小麦や、甘味として還元水飴を使用しているなど、原材料に配慮されています。1食あたり2袋を食べることで、“完全栄養”になるようです。一般的なパンよりも低糖質(約35%オフ)であるとはいえ、食事コントロール(糖質制限)をしている方は、2袋を食べることには慎重になったほうがいいかもしれません。そういう方は、1袋を食べて “天然の完全食” といわれている卵をプラスするなどの工夫をすると、コストパフォーマンスもいいと思います。同シリーズのクッキーやパスタは、本来は炭水化物に偏りがちな食品なので、置き換えることでビタミンやミネラルは追加されますが、糖質量はさほど変わりません。食べすぎないよう注意が必要です」(管理栄養士・水流琴音氏)
■完全メシ(日清食品)/王者が「がっつり」多品種展開
業界に革命を起こしている「カレーメシ」「ハヤシメシ」「日清焼そばU.F.O. 濃い濃い屋台風焼そば」(すべて429円)など、がっつり系なのに完全! 「カレーメシ 欧風カレー 中辛」は、味がねっとりと濃く、ケミカルな味がしたが、編集部内でも「美味しい」派と意見が二分。「焼そば」は元祖の「U.F.O.」とは味が違う気がするが、ケミカル感が薄く、がっつり完食。一方、冷凍の「ボロネーゼ」(468円)は激ウマだった。
「公式サイトに《栄養素独特の苦みやエグみを抑え》と書かれているように、ビタミンやミネラルを加えて生じる雑味を抑えるため、どうしても味が “濃いめ” になってしまうのかもしれません。しかし、カロリーや油分をカットし、美味しく食べられるよう工夫されています。また、通販で購入できる『冷凍 完全メシDELI』シリーズには『牛丼』や『かつ丼』など、一般的にカロリーや塩分が高めといわれているメニューにも、ビタミンやミネラルが添加されています。栄養素は追加されていますが、カレーや丼ものはつい早食いになりがち。これらは『完全メシ』とはいえ、早食いは血糖値を急上昇させ食後の眠気にも繋がるため、よく噛んで食べるようにしてください。仕事の合間にお昼ごはんや、残業で遅く帰ってくるため自炊をすることが難しい方には、手軽さが嬉しい点だと思います。」(管理栄養士・水流琴音氏)
【「完全食」の代名詞“プロテイン系”を、用途別に大研究】
■Huel(ヒュエル・ジャパン)/筋トレ系/飲む量もワールドサイズ
本社はイギリス。世界100カ国以上で3億食突破。26種類の栄養素を備えたパウダー、ドリンク、プロテインなどを展開。パウダー(1.53kg6680円)とボトルドリンク(3本2998円)では少し味が違うが、どちらもケミカル感は薄く、美味しい。「紙の味がする」との感想も。1食のノルマは500ml。慣れないと毎食は大変そう。
「環境に配慮し、植物性の原材料を使用しているのが本製品。またグルテンフリーであることから、気になる方にもおすすめです。『ブラックエディション』は、チョコ味では珍しく人工甘味料が使用されていません。人工甘味料の摂取は、腸内細菌叢の構成と機能を変化させ、糖代謝に影響することを懸念する研究もあります。長期的な健康が気になる方でも、上手に活用できるはずです。ドリンクタイプは、粉末タイプと同等のたんぱく質を、手軽に摂取することができます。他社の同ジャンル製品『KOREDAKE』(メップル)も同じくグルテンフリー、人工甘味料が不使用です」(管理栄養士・水流琴音氏)
■完全食TOKYO(Milim)/ダイエット系/女性に特化した対抗馬
パウダー45gで30種類の栄養素が摂れるソイプロテイン(765g5380円)。サイトを見ると、ターゲットは女性のようだ。先に水を入れて、あとからパウダーを溶かす。チョコレート味だと思って飲むと、「ミロかな?」という“既飲感”がある。常温水でもいいが、冷水か牛乳でも美味しくいただける。後味に、若干のプロテイン感はある。
「同シリーズには筋トレ向きのホエイ(乳清)タイプもありますが、このソイ(大豆)タイプはカロリーと糖質が少ないため、ダイエット向きです。ダイエットをする方は、体を作るために必要なたんぱく質やビタミンが不足しているケースが多いです。この製品は、たんぱく質が1食あたり24gとしっかり入っています。たんぱく質は1日あたりご自身の体重1kgにつき1g~1.5gは摂取するようにしたいですね。プロテインではありませんが、ダイエット向けの他社商品として『One ALL』(味の素)というスープパスタの完全食があります。食事代わりに摂りたい人は、こちらもおすすめです」(管理栄養士・水流琴音氏)
■CPIプロテイン(ALLUP)/栄養補給系/ペプチド原料の独自路線系
コラーゲンペプチド由来のプロテインで、クリアな味わいが特徴だという。他社より安め(450g3780円)だが、10食ぶん。ソイやホエイのようなプロテインっぽさはなく、すっきりしている。酸味があって、味の濃いリンゴジュースに近い感覚。また、ほかの製品よりもパウダーが水に溶けやすかった。美味しいだけに、すぐなくなりそうだが……。
「たんぱく質より分子が細かい『ペプチド』というたんぱく源を原材料に使用しているのが特徴です。たんぱく質に比べ、消化吸収しやすいというメリットがあります。プロテインを飲むとお腹が張る方やガスがたまってしまう方は、本製品のようなペプチドタイプや、さらに分子が小さいアミノ酸での摂取がおすすめです」(管理栄養士・水流琴音氏)
写真・越野 遥 監修・管理栄養士 水流琴音氏 参考・「日本人の食事摂取基準」(2020年版、厚生労働省)