
Instagramにハマる若者たち(写真:ロイター/アフロ)
「気づけば1日に何回も開いてる」
そんなSNSの代表格が、若者に人気のインスタグラムと中高年にユーザーが多いフェイスブックです。また、日本人が最もよく使うメッセージアプリはライン(LINE)ですが、世界的に主流のメッセージアプリはワッツアップです。これらインスタグラム・フェイスブック・ワッツアップのすべてを運営している母体がフェイスブック(現メタ)です。今や人類の約3分の1がフェイスブックのアカウントを持ち、メッセンジャーやインスタグラム、ワッツアップも含めると、その影響力は計り知れません。
ニューヨーク大学スターン経営大学院の教授スコット・ギャロウェイのベストセラー『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(2018年)でも、フェイスブックは怪物と呼ばれるほどの存在感を放っています。
フェイスブックが本格的にサービスを始めたのは2004年ですが、たった20年で世界中の30億人以上とつながるプラットフォームになりました。さらに、最速でユーザー1億人を突破した5つのアプリのうち、3つ(フェイスブック・インスタグラム・ワッツアップ)はこの会社のものです。ギャロウェイ教授によれば、私たちは毎日、平均で35分をフェイスブックに、インスタやワッツアップも合わせると50分近くを、これらのSNSに費やしているのです。
インスタグラムに投稿された写真を見て、「この場所行ってみたいな」とか「この服かわいい、どこのだろう?」と思ったことが、きっとあなたにもあるでしょう。フェイスブック系のSNSは、まさにこうした「欲望の入り口」として機能しています。マーケティングの世界では「認知→検討→購入→支持」という流れがあると言われますが、フェイスブックやインスタグラムはその入り口である、「認知」を担っています。
たとえば、「友達がフェイスブックに上げた写真で履いていたサンダルが気になる→ブランドをグーグルで調べる→アマゾンで購入」という流れは、まさにフェイスブック経由の購買行動です。フェイスブックは「何がいいか」を教えてくれる。そしてグーグルは「どうやって手に入れるか」、アマゾンは「いつ届くか」を教えてくれる。それぞれの役割が見えてきます。
フェイスブック以前の広告は、マスに向けて一斉に見せる「数の勝負」が基本でした。たとえばスーパーボウルのCMが典型です。CMはテレビを通して多くの人が視聴しますが、CMの商品に興味のある人はほんの一部に過ぎません。逆に、ターゲットを絞る広告(たとえばイーベイのバナー広告など)は、ニッチな興味を持つ層には刺さりますが、それ以上の広がりがありませんでした。
フェイスブック広告が大きな支持を得たのは、「マス」と「ニッチ」のターゲティングを同時に成立させたことにありました。超巨大プラットフォームなのに、個人の興味に合わせた広告をピンポイントで出せる。これは革命的でした。
18億人以上のユーザーが、自分の「プロフィールページ」を持っており、何年分もの思い出や活動履歴が詰まっているのです。「◯◯なタイプの人に広告を出したい」という広告主の要望を、フェイスブックは興味や行動、言葉づかい、人間関係から「その人像」を精密に描いて広告を届けてくれます。スマホアプリとしてのフェイスブックは、いまや世界最大級のネット広告売上を誇る広告帝国でもあります。
毎日フェイスブックを見ている人は、この地球上に6人に1人の割合です。私たちは、性別・年齢・学歴・趣味・仕事など、いろんな情報を意識的にも無意識的にもSNS上に公開しています。マーケターからすれば、これほど詳細な情報を分析できる環境はありません。
逆に、「プライバシーを守りたい」と考える人にとっては悪夢かもしれません。実際、フェイスブックは「個人情報を広告に使っていない」と言いつつ、ユーザーが興味を持ちそうな投稿を表示するために、それらの情報をフル活用しているようです。
たとえば、インスタグラムで見た画像に「いいね!」を押したら、その広告がすぐさまあなたのフェイスブックに現れることがあります。複数のサービスをまたいで、ユーザーの動きを追跡できる仕組みがあるといわれています。
■ネットワーク効果とは何か
通常の企業は「使えば減るモノ」を取り扱っているのに対し、フェイスブックが取り扱っているのは「広まれば増える情報」です。私たちは普段、「使えば価値が下がるのが当たり前」の世界に住んでいますが、SNSのデジタル世界では、その常識が180度ひっくり返ります。
たとえば、お気に入りのスニーカーを履いて外に出れば、底はすり減り、色はあせていきます。使えば使うほど、その価値は「目減り」していくのが物理的な商品の宿命です。それに対して、あなたがSNSにアップした「スニーカーを履いた写真」は、100人が見ても1万人が見ても、すり減ることはありません。それどころか、多くの人が「いいね!」を押し、それを見た誰かが「自分も欲しい!」と思うことで、そのスニーカーは「あなたが所有する一足の靴」から「誰もが憧れる価値あるアイテム」へと進化します。
つまり、物理的な商品は使えば「劣化」しますが、SNS上の情報は見られれば見られるほど、参加者が増えれば増えるほど、雪だるま式にその価値が膨らんでいきます。これを「ネットワーク効果」と呼びます。
また、誰かがフェイスブックで地図アプリを使えば、そのデータが他のユーザーのルート予測にも役立つというように、利用者が増えることでサービス全体の質も上がっていきます。
さらにフェイスブックのアルゴリズムは、地域ごと・属性ごとに非常に細かくターゲットを絞った広告配信ができます。こうした強みが、他のプラットフォームではなかなか真似できないフェイスブックの「無敵さ」につながっているのです。
このネットワーク効果が、フェイスブック、アマゾン、グーグルの莫大な収益の秘密です。これらの会社のサービスを使うことによって、ユーザーはこれらのサービスの品質向上のための労働を無償で行っているのです。たとえば、フェイスブック、インスタグラムのユーザーは、全人類の3分の1の数にあたります。この莫大な人口が、毎日50分もの時間をこれらのサービスの価値向上のために無償労働しているともいえるのです。
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以上、坂出健氏の近刊『贅沢と欲望の経営史 あなたはなぜ今日もスタバに行ってしまうのか』 (光文社新書)をもとに再構成しました。ダイアモンドの独占供給、エルメスのプレミアム戦略、ユニクロやザラのマーケティングまで1本の線でつなげ、世界を回す贅沢品の本質に迫ります。
●『贅沢と欲望の経営史』詳細はこちら
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