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【目指せ不思議スポット】古事記が伝える“あの世”への道
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.07.12 09:00 最終更新日:2018.07.17 15:15
2010年に公開された映画『瞬 またたき』の舞台となったことで、その名を広く知られることとなった黄泉比良坂。物語のラストシーンで、亡くなった恋人にもうひと目会いたいと願う女性が訪れるのがこの場所で、つまり黄泉比良坂はあの世との境い目と伝えられている。
黄泉比良坂は、もともとは『古事記』に登場する神話の現場だ。日本列島を生み出した男神イザナギと女神イザナミ。最愛の妻であるイザナミに先立たれたイザナギは、どうにかもう一度だけでも妻に会いたいと、黄泉比良坂を越えて黄泉の国へと向かう。
だが、醜く腐り果てたイザナミの姿を見てしまったことで、イザナギは、怒れるイザナミから追いかけられる羽目に。イザナギは黄泉比良坂まで逃げ帰ってきたところで、巨大な岩で坂を塞ぎ、元妻を振り切ったのだった。
今も黄泉比良坂に置かれている岩こそが、イザナギが置いた巨石であると伝えられている。この岩は「千引岩」と呼ばれ、その名の通り動かすためには1000人の力を必要とする巨石である。
JR山陰本線・揖屋駅から歩いて20分程度。大通りからも近い黄泉比良坂は、全国的に見ても非常にアクセス良好な神話の残滓と言えるだろう。まず目に飛び込んでくるのは、2本の石柱にしめ縄を通した、鳥居を思わせる結界である。これをくぐれば、千引岩はもう目の前だ。
木漏れ日の心地いい、晴天の日に訪れたせいか、予想していたほどの物々しさは感じない。霊感の強い人はここでズッシリと肩に重みを感じることもあるらしいが、僕にとってはただただ、静謐で安らぎすら与えてくれる空間だった。
大きな岩は3つある。ひときわ大きな中央のものがイザナギの手によって置かれたものだろうか。傍らにはささやかに花が添えられている。
イザナギが怒り狂うイザナミから逃げ出し、道を塞いだエピソードは、亡き者への未練を断ち切る物語のようにも思える。
実際、この話には続きがあり、イザナギは妻を亡くして失意のまま暮らしていたころがうそのように、気持ちを立て直している。
岩で行く手を阻まれたイザナミは、イザナギに向かって「これから毎日、1000人の人間を殺してやる」と吐き捨てたそうだが、イザナギはこう切り替えしているのだ。
「――だったら、私は毎日1500人の子供が誕生させよう」
なんとも壮大な夫婦喧嘩だが、日本がこうして繁栄したのも、未練を断ち切り、力強く再生したイザナギのおかげかもしれない。
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以上、友清哲氏の新刊『消えた日本史の謎』(知恵の森文庫)から再構成しました。謎の構造物、おかしな物体、奇妙な伝承、未解明のパワースポット…不思議をめぐる旅の記録です。