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酒瓶を担いで飛行機に…世界38カ国に日本酒を売る蔵元の挑戦

ライフ・マネー 投稿日:2019.02.18 06:00FLASH編集部

酒瓶を担いで飛行機に…世界38カ国に日本酒を売る蔵元の挑戦

手作りの酒造りにこだわる

 

「蔵元って、中継ぎピッチャーなんですよ」
 蔵を継ぐことについて質問すると、南部美人の五代目蔵元・久慈浩介さんは笑顔でそう語る。その心は?

 

「ボールを受け継いで、とにかく投げつづけること。そして、必ず次の投手にボールを渡すこと。時代により、勝っているか負けているかの違いはあれど、いかに試合を壊さずに次の代につなげるか。それを考えるのが蔵元です」

 

 

 先代の浩さんは、販路を岩手から全国に拡大。父からボールを受け取った浩介さんは、「自慢の酒を世界の人間に飲んでもらいたい」と、1997年に日本酒輸出協会を設立。

 

「最初は手荷物で酒瓶を担いで飛行機に乗り、ニューヨークへ行きましたよ」

 

 各国で人気のレストランや酒販店を一軒ずつめぐり、粘り強く日本酒の美味しさを広めつづけた。

 

「パレスチナ自治区にも、酒瓶を持って行きました。じつはキリスト教特区というのがあって、アラブでも酒が飲め、ホテルの1階でワインを造ったりしている。私は、そこに日本酒を初めて置いた日本人だと思います」

 

 原点は高校生で、アメリカ・オクラホマ州にホームステイした際のホストファミリーの言葉だ。

 

「土産に1本持っていったら、『こんなに美味い酒を造っているなら、お前は絶対に蔵を継ぐべきだ。これはほかにない文化じゃないか』と言われまして。なるほど外から見ればそうか、と」

 

 言うまでもないが、世界中の消費者は、美味い酒でなければ目もくれない。そのために社訓でもある「品質一筋」を貫く。

 

「私の代で目指すのは、飲んで笑顔になるお酒です。フルーティーな香りと、後味のキレにフレッシュさを感じる、わかりやすく誰もが『美味しいね』と感じる酒、整った美しさを持つ酒なんです」

 

 日本酒造りの最後には「火入れ」という、腐敗の元となる火落ち菌を殺菌する工程があるが、そこにも最新の設備を導入。65度まで温めた生酒をわずか1秒で10度に下げることで、火入れ後も搾りたての風味をそのまま残し、冷蔵貯蔵で消費者の手元まで配送できるようになった。

 

 そんな「品質一筋」の努力が実り、今では世界38カ国に「サザンビューティー」の名で輸出され、各国の日本酒愛好家に親しまれている。

 

 五代目を野球でたとえるなら、しっかり点差を守ってホールドポイントをあげる中継ぎエースといった趣。そのうえで、今後は「世界の人を岩手に呼ぼう」と柔軟な発想を持ってインバウンド需要創出に取り組む。

 

「フランスワインのシャトーのように、この酒はここで造ってるんですよ、ということで世界中から人を呼びたい。言うならば『日本酒の一大テロワール』です(笑)。

 

 岩手の二戸に来て、『吟ぎんが』など地元の酒米を育てている美しい田んぼをバックに、外国人がスマホでどんどん写真を撮って、知り合いに拡散する。田んぼはどーんとWifi完備です(笑)。

 

 そして蔵では、搾りたてのお酒を日本らしい雰囲気あるレストランで楽しめる。もちろん、つまみは地元産のものを厳選して出す。ねぇ、いいでしょう?」

 

 本当に楽しそうに話す様子を見て、「このアイデア力とバイタリティーがあれば、その夢も近い将来に実現するのでは?」と思わされた。
 太陽のごとき五代目の笑顔がそこにあった。

 

酒米は「こしき」と呼ばれる大きな蒸籠を使い、約1時間で蒸し上げられる

 

<蔵元名>
南部美人(岩手県) 
創業117年(1902年)

<銘柄>
南部美人(なんぶびじん)

岩手県二戸市福岡上町13
https://www.nanbubijin.co.jp/

<社訓>
品質一筋

 

麴米と掛け米(洗って蒸した米)、水がタンク内で発酵して、もろみになる。仲添、留添と呼ばれる仕込みの二、三段階めでは、空気圧を使ってホースで掛け米が送られる

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