8月29日、ハリケーン「アイダ」が非常に強い勢力を維持したまま米国ルイジアナ州に上陸した。
上陸時の中心気圧は930ヘクトパスカルで最大風速は67メートル。上陸したハリケーンとしては米国史上5番目の風速で、あと3メートル強ければ5段階中最強の「カテゴリー5」に分類される。
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気圧930ヘクトパスカルは日本だったら歴代3位に入る。伊勢湾台風の上陸時に和歌山県で記録された気圧が929ヘクトパスカルだ。
バイデン大統領は、早い段階でルイジアナ州の非常事態宣言を承諾し、2000名のFEMA(連邦緊急事態管理庁)職員が動けるように対応した。
しかし、州知事はハリケーンが強すぎるため、早くても翌朝まで災害救助隊が動けない、各自が最初の72時間の備えをするよう、指示を出した。家にいる場合は外出せず、翌日まで家の中心部で身を伏せて過ごすように呼びかけている。
地元の気象台は、これまでにない強い口調で避難を呼びかけており、周辺道路や空港は混雑を見せた。実は、あまりに急激にハリケーンが発達したため、自治体は強制力をともなう避難指示を出せなかった。
アイダの驚異的な急発達について、気象予報士の白戸京子さんがこう話す。
「周辺の蒸し暑い空気と、30度に達したメキシコ湾の水温のせいで、大量の水蒸気が送り込まれました。しかも、進路に発達を遮るような風の流れがなかったのです。
発達の速度は気象台の予想を上回るもので、上陸までの24時間で中心気圧は51ヘクトパスカルも強まりました。その半分のペースでも私たちは『爆弾低気圧』と呼びます。
通常、ハリケーンは陸の上を通るときに摩擦で弱まるのですが、アイダはジャマイカ上空を通過しながらも衰えず、ルイジアナ州に上陸するまで勢力を弱めることなく北上しました。
上陸後も、台風の眼の壁にさらに数個の渦巻が存在していることが専門家の間で話題になりました。
あまりの強さで、ニューオリンズを流れるミシシッピ川が風圧で一時逆流したそうです。広い範囲が停電したうえ、周辺の石油施設も操業を停止したため、原油先物指標にも影響が出ています」
アイダの上陸は、16年前に多数の死者を出したカトリーナと同じ日である。このエリアには昨年ハリケーン「ローラ」が同じくカテゴリー4の勢力で上陸している。
気候変動の影響を受け、昨年の大西洋はハリケーン史上最も発生数の多い年だった。気温や海水温の高い状態は日本付近でも続いており、今後、勢力があまり衰えないまま上陸する台風が増える可能性は高い。
台風の本土上陸が最も多いのは9月だ。とりあえず自宅に72時間分の蓄えをしておきたい。