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石川県能登町「イカキング」経済効果6億円! 「計算方法は?」ネットでの疑問を役場にぶつけてみた

社会・政治 投稿日:2022.09.04 13:45FLASH編集部

石川県能登町「イカキング」経済効果6億円! 「計算方法は?」ネットでの疑問を役場にぶつけてみた

石川県能登町が作成した「イカキング」。重さは5tある 写真・共同通信

 

 8月29日、能登半島の先端に近い石川県能登町が、日本有数のイカ釣り漁港であることをアピールするために製作した巨大スルメイカ像「イカキング」の経済効果について、約6億円になると報じられた。「批判一転 イカキングが大化け」「設置費の22倍の経済効果」などとも伝えられ、SNSではこれを称賛する声が上がった。

 

《メディアにもボロクソに叩かれてたのをよく覚えてる。良かった良かった。痛快だなあ》

 

《なんでもかんでも無駄遣いっていうのもわからんでもないけどこういう例もあるし、守りに入るだけではあかんなぁ》

 

 

 イカキングは、全長13m、幅9mの繊維強化プラスチック(FRP)製。2021年3月、イカの魅力を伝える町の観光施設「イカの駅つくモール」に設置された。建設費2700万円のうち、2500万円を国のコロナ対策の地方創生臨時交付金で賄ったため「無駄遣い」と批判を浴び、英BBC放送など、海外のメディアでも取り上げられた。

 

 町議会で経済効果を問われたこともあり、町の公募に応じた経営コンサルタントの白尾敏朗氏が、無報酬で経済効果を算出したという。

 

 ただSNSには、経済効果の6億円という額を疑問視する声も上がっている。

 

《人口1.7万の町で6億の経済効果というのもど~考えても計算ガバガバ》

 

《随分甘い計算だこと(笑)》

 

《無報酬で経済効果を算出する人を公募??? ちょっと行政は経済効果の算出を甘く見過ぎだろう》

 

 そこで、具体的な計算方法について、能登町ふるさと振興課の山下栄治課長に聞いてみた。

 

「これは、あくまで石川県全体の経済効果です。能登町での経済効果を出すのは、手間と費用がかかるので、できませんでした。一般的に経済効果を算出する際に使われる、石川県の産業連関表を使っています。5年ごとに見直しがあるのですが、今回、使ったのは直近となる2017年版。ここに、イカキングを目当てとして『つくモール』に来場されたであろう、総来場者数の45%の方々が、来場前、来場後に使う金額をアンケートから集計して、数値を入れ込んだのです。その結果が5億9444万円となったわけです。

 

 一般的に使われている算出方法ですので、決して算出方法がゆるいとは認識しておりません。ただ、あくまでアンケートの数字を基にしたもので、そのアンケートも全数アンケートではなく、抽出したものからの推計値となっているので、差異は出るとは思いますが」

 

 ふるさと振興課と白尾氏は、2022年6月上旬から8月下旬、『イカの駅つくモール』で、来場した理由と支出額を尋ねるアンケートを実施。来場した理由については、1125人中506人(45%)が「イカキングを見たかったから」と答えた。

 

「イカの駅つくモール」ではレジ利用者数をカウントしており、レジ利用者数は実数としてデータがある。そこで数日間、来場者を実測。来場者のうちレジを利用する(実際に物品を購入する)割合が77%というデータを得た。

 

 イカキングが設置されたのは、2021年3月。2021年4月から2022年7月末までのレジ利用者数を、0.77で割り返し、この期間の来場者数を16万4556人と推計。「イカキングが見たかったから」とアンケートで答えた45%を当てはめ、7万3652人がイカキング目当てだったと推計した。

 

 同時に、「つくモール」を訪れた際にかかった支出をアンケートで集計。7万3652人の来場者を推計した結果、8億265万円が支出されていると集計された。その額を石川県産業連関表に当てはめたところ、経済効果が5億9444万円となったという。

 

「アンケートの質問は、イカキングを見たあとにお土産を買ったかとか、『つくモール』に車で来たか、など支出を聞くものですね。県内から来られた方ですと、だいたい5000円から1万円ぐらい。県外から来られた方だと、2万円ぐらいの支出があり、平均値として、ひとりあたり1万1000円となりました。そしてこの支出を、お酒を買ったなら酒造にお金を振り分けたり、車で来場したならば石油産業部門に振り分けたりと、数値を産業別に落とし込むと、第一次波及、第二次波及ということで、約6億円という額が算出されたということです」(山下課長)

 

 ここで気になるのが、イカキングを作ったことで入場者数は増えているのか、また、経済効果はイカキングだけからもたらされたものなのか、という点だ。

 

「『つくモール』のオープンは2020年の6月、イカキングを設置したのが2021年の3月です。イカキングを目当てに来たのか、『つくモール』を目当てに来たのかの差異は、明確にできないと思っています。

 

 ただ、イカキングを作ったことで入場者数は増えています。レジカウント数から推計した入場者数は、2020年の6月から2021年3月までは、9万9474人(1カ月平均9947人)。一方で、イカキングを設置した後の2021年4月から2022年7月までは、16万4546人(1カ月平均1万284人)。もちろんコロナ禍での波や、行動制限が解除された影響などもありますが、入場者数の推計値では増えています」(山下課長)

 

 町の公募に応じた経営コンサルタントが無報酬で経済効果を算出した点、またイカキングの建設費用の2700万円と、石川県全体での経済効果6億円を比較するのは、正当かどうかという点も気になるところだ。

 

「アナザーワークスという企業と、町の課題解決など、お手伝いをいただく協定を結んでおります。アナザーワークスさんに業務委託費を支払うということはありません。自治体に力を貸してくれる協定を結んでいます。そのなかで公募に白尾さんが応募したということで、無報酬だから計算が甘いということはないと思います。

 

 また、私個人的には、イカキングの建設費用と経済波及効果を比較するのはナンセンスだと思っています。結果として波及効果があったということで、投資に比して、というわけではなく、22倍だからよかったというものではないと思っています。

 

 コロナ対策交付金からイカキングの建設費用を支出しているわけで、コロナ禍後における集客、観光の支援、コロナ後の観光需要の回復を目的として建設しました。国が使途を定めているので、その予算枠組みのなかで執行したわけです。どんな事業でも賛否はあると思いますが、イカキング設置後も、コロナ禍の第7波が続くなか、結果として集客できている点では、当初の設置目的は達成されたのかな、と思っています」(山下課長)

 

 北陸地方で観光業に従事する関係者が言う。

 

「石川県のなかでも能登地域(七尾市、羽咋市、輪島市、珠洲市、宝達志水町、志賀町、中能登町、能登町、穴水町)の観光客は、2019年に768万人だったものが、2020年に433万人、2021年に400万人と減少しています。そのなかで能登町は、イカキングという“変なもの”を作ってマスコミに取り上げられたことで、実際に観光客が来ているんです。

 

 イカキングを見るために能登町に来れば、イカを食べてくれるし、泊ってくれる人もいるし、これだけバズれば建設費の元は取れたと思いますよ。『経済効果6億円』という数字がこれだけ報道されれば、また能登町に来てくれる人がいるかもしれませんしね」

 

 批判されたことをネタにする。能登町のふるさと振興課がたくましいのは間違いなさそうだ。

( SmartFLASH )

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