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昭恵夫人を前に…「かませ犬」野田佳彦元首相が気迫の追悼演説、SNSには称賛の声
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.10.25 15:30 最終更新日:2022.10.25 15:30
10月25日の衆院本会議で、野田佳彦元首相は、安倍晋三元首相の国会追悼演説に臨んだ。
野田元首相は10月17日、自身のブログにこうつづっていた。
《衆議院で行われる安倍氏への追悼演説の人選が迷走し、私の名前が浮かんだり消えたりしていましたが、ずっと困惑していました。長期政権が誕生するきっかけとなった因縁がある上に、その最期にも立ち会う運命になるとは…。安倍氏にスポットライトを当てるための政治人生です。「かませ犬」みたいです》
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「かませ犬」と自嘲する野田氏が、安倍元首相を追悼する最後の役回りを演じることとなった。本会議場では、安倍元首相の遺影を手にした昭恵夫人が見守っている。
野田氏は、昭恵夫人に深々と一礼したあと、追悼演説に挑んだ。
「安倍さん。あなたは、いつの時も、手ごわい論敵でした。いや、私にとっては、かたきのような政敵でした。攻守を代えて、第96代首相に返り咲いたあなたとの主戦場は、本会議場や予算委員会の第一委員室でした。
少しでも隙を見せれば、容赦なく切りつけられる。張り詰めた緊張感。激しくぶつかり合う言葉と言葉。それは一対一の『果たし合い』の場でした。激論を交わした場面の数々が、ただ懐かしく思い起こされます」
2012年12月26日、解散総選挙後、皇居での首相親任式で2人きりとなったとき、安倍氏が見せた気遣いにも触れた。
「安倍さん。あなたは議場では『闘う政治家』でしたが、国会を離れ、ひとたび兜を脱ぐと、心優しい気遣いの人でもありました。それは、忘れもしない、平成24年(2012年)12月26日のことです。解散総選挙に敗れ敗軍の将となった私は、皇居で、あなたの親任式に、前総理として立ち会いました。
同じ党内での引き継ぎであれば談笑が絶えないであろう控室は、勝者と敗者の2人だけが同室となれば、シーンと静まりかえって、気まずい沈黙だけが支配します。
その重苦しい雰囲気を最初に変えようとしたのは、安倍さんの方でした。あなたは私のすぐ隣に歩み寄り、『お疲れさまでした』と明るい声で話しかけてこられたのです」
2017年1月20日、首相である安倍氏と2人きりになった際、1時間あまり、語りあったエピソードも明かした。
「私が目の前で対峙した安倍晋三という政治家は、確固たる主義主張を持ちながらも、合意して前に進めていくためであれば、大きな構えで物事を捉え、飲み込むべきことは飲み込む。冷静沈着なリアリストとして、柔軟な一面をあわせ持っておられました。
あなたとなら、国を背負った経験を持つ者同士、天下国家のありようを腹蔵なく論じあっていけるのではないか。立場の違いを乗り越え、どこかに一致点を見いだせるのではないか。以来、私は、そうした期待をずっと胸に秘めてきました」
安倍氏の国葬の際、菅義偉前首相が「山縣有朋の歌」を読み、反響を呼んだように、野田氏も過去の政治家のエピソードを盛り込んだ。
「憲政の神様、尾崎咢堂(行雄)は、当選同期で長年の盟友であった犬養木堂(毅)を五・一五事件の凶弾で喪いました。失意のなかで、自らを鼓舞するかのような天啓を受け、かの名言を残しました。
『人生の本舞台は常に将来に向けて在り』
安倍さん。あなたの政治人生の本舞台は、まだまだこれから先の将来にあったはずではなかったのですか。再びこの議場で、あなたと、言葉と言葉、魂と魂をぶつけ合い、火花散るような真剣勝負を戦いたかった。
勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん。耐えがたき寂寞(せきばく)の念だけが胸を締めつけます」
そのうえで、首相としての事績は、歴史の審判を受けなければならない、また野田氏自身も問い続けるとの思いを語った。
「長く国家のかじ取りに力を尽くしたあなたは、歴史の法廷に、永遠に立ち続けなければならない運命(さだめ)です。安倍晋三とはいったい何者であったのか。あなたがこの国に残したものは何だったのか。そうした『問い』だけが、いまだ中ぶらりんの状態のまま、日本中をこだましています。
その『答え』は、長い時間をかけて、遠い未来の歴史の審判に委ねるしかないのかもしれません。そうであったとしても、私はあなたのことを問い続けたい。国の宰相としてあなたが残した事績をたどり、あなたが放った強烈な光も、その先に伸びた影も、この議場に集う同僚議員たちとともに、言葉の限りを尽くして、問い続けたい。
問い続けなければならないのです。
なぜなら、あなたの命を理不尽に奪った暴力の狂気に打ち勝つ力は、言葉にのみ宿るからです。暴力やテロに、民主主義が屈することは、絶対にあってはなりません。あなたの無念に思いを致せばこそ、私たちは、言論の力を頼りに、不完全かもしれない民主主義を、少しでも、よりよきものへと鍛え続けていくしかないのです」
約25分に及んだ追悼演説を終えた野田氏は、再び昭恵夫人に深々と一礼し、安倍氏の遺影を手にした昭恵夫人も同じく深々と一礼した。
大役を果たし、壇上を降りる野田氏に、本会議場ではしばらく拍手が鳴りやむことはなかった。
野田氏の追悼演説に、SNSでは称賛する声が多く上がった。
《ダメだ。涙でました。野田佳彦氏の追悼演説素晴らしかった、ありがとうございます》
《言葉に魂が入っていた。想いが溢れていた。ありがとうございます》
《すごくすごくよかったよ。テレビ中継してほしかったな》
《野田氏が最後訴えていたように、暴力に屈することなく言論によって社会を変えていく、そんな政治を期待します》
なかには、こんな声もあった。
《先にこっちの追悼演説やっとけばここまで国葬、割れなくて済んだのでは…》
「かませ犬」と自嘲しながら大役を果たした野田氏は、野党政治家としての矜持を示した。
( SmartFLASH )