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梨泰院・群集雪崩を起こすな! 参拝者200万人超“人気神社”の秘策「危ないと警察から指導」橋を迂回するルートで実施

社会・政治 投稿日:2022.11.10 06:00FLASH編集部

梨泰院・群集雪崩を起こすな! 参拝者200万人超“人気神社”の秘策「危ないと警察から指導」橋を迂回するルートで実施

参拝者数298万人(2020年)の成田山新勝寺。9月ごろから、警察や市とともに綿密な警備や交通規制計画を立てているという。写真は2018年のもの(写真・EPA=時事)

 

「皆さん、急がなくても神様(仏様)は逃げません!」

 

“DJポリス”のこんな呼びかけは、初詣で賑わう神社や寺の風物詩だ。

 

 そんなユーモラスな口上も、来年の正月は切実さを帯びそうだ。もちろん、韓国・ソウル市の梨泰院で156人が亡くなった雑踏事故の影響である。

 

 関西大学の川口寿裕教授(群集安全学)が解説する。

 

「梨泰院の事故は、3年ぶりに行動規制が外れたうえにドラマ『梨泰院クラス』の影響もあり、人出が多くなることは予想されていました。

 

 

 しかし報道を見る限り、雑踏警備の計画はほぼなかったようです。しっかりと警備ができていれば、事故を防げた可能性が非常に高いと思います」

 

 今後、人出が増えることが予想されるのは、日本も同じ。直近の恒例イベントである初詣で、200万人以上が訪れる人気寺社に、2023年の警備態勢を聞いた。

 

「ちょうど今ごろ(取材は11月上旬)、警察と打ち合わせをするのですが、今年は梨泰院の雑踏事故を踏まえ、初詣の警備計画を進めています」

 

 そう語るのは、住吉大社(大阪、2020年の参拝者数235万人)の担当者だ(以下、特記のないコメントは広報担当者のもの)。

 

「うちは警察の指導のもと、民間の警備会社に依頼して自主警備をしています。警備員が配置される場所は120ポスト。人数は200人以上です」

 

 具体的には、どのような対策をおこなっているのか。

 

「境内は一方通行にし、人が密集しないように、境内の手前で人流を止め、混雑状況を見て次の人たちを迎え入れるようにしています。混雑時は、最寄駅からまっすぐ境内に入れないようにして、遠回りにはなるんですけど、迂回していただいています」

 

 東京大学の西成活裕教授(渋滞学)が、迂回ルートをとることの有効性を語る。

 

「結果的に無観客になってしまいましたが、私は東京五輪の群衆アドバイザーを務め、横浜スタジアムの安全対策を検証しました。球場は関内駅からすぐ近くにあり、短い道路に人溜まりができてしまいます。五輪では一日に数試合が開催されますから、人の流れが対面通行になり、梨泰院の事故と似た危険な状態になります。検証では、球場から一気に人が駅に流れないよう、遠回りする迂回ルートを作り、安全を確保しました」

 

 人流が滞留しないように対策しているというのは伏見稲荷大社(京都、同277万人)も同様だ。

 

 前出の川口教授がその重要性を語る。

 

「本殿にお参りに行く人と、帰る人がぶつかる形のルートではなく、お参りを終えた人は、別のところを通って出て行くよう規制をかけることは、安全対策として有効です」

 

 成田山新勝寺(千葉、同298万人)は、「今回の梨泰院の事故よりも前から、警察と警備の打ち合わせを重ねています」と自信を見せる。

 

 梨泰院の事故は幅3mの坂道で起きたが、成田山新勝寺では以前から、坂道での通行に対して規制をおこなっているという。

 

「人が密集しないように間隔を空け、人数を分散させて参拝いただいております。成田山新勝寺には複数の門がありますが、あえて入口を一カ所にして人の流れを一方通行にするほか、急な坂は下りのルートにならないように配慮しています。毎年、かなり厳しい態勢を敷いています」

 

 一方、「階段にはお並びいただけないような仕組みになっています」と説明するのは、浅草警察署と連携して300人態勢で警備にあたる浅草寺(東京、同239万人)だ。

 

「浅草寺は、今回の梨泰院の事故と違って坂はありません。注意すべき点としては階段なんです。階段の目の前にバリケードを張り、警備の担当者が案内するタイミングで、階段を上っていただくことになります」

 

 太宰府天満宮(福岡、同230万人)は、来年から新たな対策を始めるという。

 

「うちには、太鼓橋(太鼓の胴のように丸く反ったアーチ橋)があるんですよね。そこが危ないと警察から指導があり、2023年は蛇行するルートを設けて、太鼓橋の上に多くの人が乗らないようにします。指導があったのは、韓国の事故が起こる前ですが、今回、さらに安全対策の見直しをおこなうかもしれません」

 

 前出の西成教授も、これらの対策に賛同する。

 

「階段の場合、上のほうで誰かが倒れたら、一気に雪崩になってしまいます。危険なのは、階段の上り切った先が渋滞し、もうそれ以上は上れずに止まっているのに、後ろの人が知らずに上り、渋滞してしまうパターン。下りの場合も同様で、エスカレーターを降りた先が混んでいて人が溜まってしまい、死亡事故が起きた例があります」

 

 大宮氷川神社(埼玉、同205万人)の警備態勢の礎は、1956年の元旦に124人が亡くなった新潟・弥彦神社の事故を教訓に作られたものだという。

 

「大晦日から三が日にかけて大宮警察署の署員のほか、警備員を増員し、赤十字社の方にも臨時で怪我人の対応にあたっていただいております。門の入口と境内では、係員が『止まってください』『進んでください』と書かれたプラカードを掲げるなど、5カ所で通行の調整をして、一方通行でお参りをしていただいています」

 

 熱田神宮(愛知、同235万人)は、通行規制や、本殿の前の扉を混雑状況に応じて開閉するなどの対策を十分に講じているといい、そのうえでこう回答した。

 

「元旦に100万人、翌2日に70万人、3日には50万人くらいの方が参拝に来られます。梨泰院の事故現場周辺には10万人が集まったと報じられていますが、境内はずっと広いですから、あのような密集状態にはならないのです」

 

 人気の寺社の“伝統の秘策”のおかげで、数百万人が安全に参拝できている。そう考えると、遠回りや一方通行、進まない行列も納得だ。なにより、神様や仏様は逃げないのだから。

( 週刊FLASH 2022年11月22日号 )

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