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【メタバース】すでにもっとも「ファッション・アイテム」が売れている仮想世界の最前線

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.01.02 11:00 最終更新日:2023.01.02 11:10

【メタバース】すでにもっとも「ファッション・アイテム」が売れている仮想世界の最前線

 

 私はメタバースを、「現実とは少し異なる理(ことわり)で作られ、自分にとって都合がいい快適な世界」と考えている。現実と同じであれば、わざわざ苦労して仮想世界を作る必要はない。何らかの意味で、快適な世界でなければならない。

 

 仮想の世界なので、人によってまったくベクトルが異なる「快適さ」を一人一人に向けてカスタマイズできるのがミソだ。人によってその快適さは、空を飛ぶ体験であったり、摩擦のない人間関係であったりするだろう。法規制に縛られない金融サービスが目当ての人もいるかもしれない。

 

 

 長引くコロナ禍で、もうマスクを外すのが恥ずかしくなってしまい、メタバースでしか素顔を晒したコミュニケーションはしないと述べる学生もいる。リハビリで利用する人もいるし、極端な話、余命1年と宣告された人が、体感速度の異なるメタバースに没入し、「自己認識としては2年生きられた」といったサービスすら設計可能である。

 

 現実でも展開可能なビジネスを仮想世界へ移植しただけでは、持続的に利益を生み出すのは難しい。利用者に「確かにこれを現実でやるのは無理だ」と思わせなくてはならない。

 

 それらは、断片的にはこれまでにも存在した。その最右翼がゲームであり、SNSである。ゲームこそは「現実では無理な体験」を実践する場だ。SNSも友だちの発言をくまなく網羅したり、いやな人をしれっとブロックするなど、現実のコミュニケーションでやりたくてもできないことが実現できる。

 

 これまでのゲームやSNSは、あくまでも一サービスに過ぎなかった。ゲームは遊びの場であり、それ以上のものではなかった。1日中ゲームにかまけているわけにはいかず、いつかはログアウトして出社したり、登校したりする必要があった。

 

 もちろん、それはいまでも変わらないし、人が肉体を持った生きものである以上、食事や排泄を現実世界で行う不自由からは逃れられないが、もうちょっとやれることを増やしたのがメタバースである。

 

■ビッグテックしか勝負できない世界

 

 ビジネスの視線で見れば、その世界の中で仕事や勉強をさせることが叶えば、一気に大量の可処分時間を奪うことができる。プラットフォーマーが目の色を変えるのは当然なのだ。

 

 どんなサービスでもそうだが、「そこで暮らせるような世界」を目指すメタバースの場合、どのくらい利用者がいるかが決定的な意味を持つ。だから各プレイヤは血で血を洗う争奪戦を演じている。

 

 メタ(旧フェイスブック)はSNSで30億のアカウントを握っているし、マイクロソフトは8兆円買収(2022年1月にゲーム大手のアクティビジョン・ブリザードを買収した。メタバースの要素技術を買ったと評されたが、筆者は「利用者を買った」側面が強いと考える)で利用者数を億の単位にのせた。

 

 これらとんでもない数の人々を収容し、「確かにここは一つの世界だ」「自分の貴重な時間を消費して関わるにふさわしい社会だ」と感じさせるような密度の情報量で街や人を作るにはどれだけの投資が必要か?

 

 とんでもない額を湯水のように注ぎ込むことになる。利用者が何をするかわからない、かつ生活圏、経済圏と呼べるような水準で「世界」を感じさせるほどコンテンツを作り込むのであれば、その制作現場は資金をすするブラックホールのようなものだ。

 

 だからフェイスブックは年間100億ドルをメタバースに投じると宣言したし、少しでも人件費を減らせるように背景や建築物をAIで設計・設置できないかが検討されている。

 

 こうした施策は、ビッグテックでないと難しいと思う。もう少し控えめに表現しても、ビッグテックが極めて有利だ。まだ評価の定まらない技術や概念に年間100億ドル突っ込める企業がいったい何社あるだろう。企業に限定せず、国家まで含めても、そこまで体力がある組織が多いわけはない。

 

 人の目で見て自然なほどに洗練された風景や建物をAIで自動生成する技術もそうである。資金と技術の蓄積がないと実現できない。これはビッグテックに有利なゲームだ。

 

 いくつかの偶然と必然が重なって、素晴らしいアイデアとスキルを持ったユニコーン企業が現れたとしても、それが花開くころにはビッグテックに買われてしまう。

 

■拡大するメタバース

 

 メタバースはもう起動している。いま提供されているサービスの水準は、映画『レディ・プレイヤー1』の世界には遠く及ばず、各社各様のポジショントークに期待を膨らませてしまうとがっかりする。

 

 だが、幻滅期が訪れたときに誰もいなくなってしまうほど小さな市場ではなくなっている。未だキャズム(越えるのが困難な大きな溝。アーリーアダプターとそれに続く大衆の間に横たわる)は超えられないが、イノベーター(冒険好きの革新者。新しければ取りあえず手に取ってくれる層)やアーリーアダプター(流行に敏感な初期採用者。オピニオンリーダーとも呼ばれる)にはしっかりと根付き、彼らの生活空間となり、その範囲は拡大し続けている。

 

 経済主体としての人は、自分が軸足を置いているコミュニティにお金をかけて、自分の周囲を快適にしようと試みる。現実の服飾にはお金をかけなくても、メタバースのアバターの見てくれには投資を惜しまない層が存在感を増しつつある。仮想世界での生活を充実させたいのである。

 

「現時点で一番ファッションアイテムが売れているのはメタバース」という言い方がある。

 

 LINE、SNOWで著名なNAVERのZEPETOは、アバターを必須にしたSNSといった趣のサービスだが、10代中盤~20代前半の女性を中心に急速に利用者数を伸ばした。グッチ、ナイキ、アディダスなどがアバター用のファッションアイテムを売り、成功を収めている。

 

 フォートナイトも相変わらず好調だ。ゲーム内キャラクターに着せるバーチャルファッションの売上はワールドワイドで年間30億ドルとも50億ドルとも言われている。

 

 日本国内のアパレル市場が数兆円だから、ワールドワイドでその10分の1以下と思えば大きな数値ではないが、無視できる数値でもない。すでに普及の橋頭堡は確保されている状態だ。ビッグテック各社はいずれ本格普及に向けて、キャズムという名のルビコン川を渡ろうとするだろう。

 

 

 以上、岡嶋裕史氏の近刊『Web3とは何か~NFT、ブロックチェーン、メタバース』(光文社新書)をもとに再構成しました。ICTの新しい潮流の全体像を、批判的な見方も含め解説します。

 

●『Web3とは何か』詳細はこちら

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