前出の社員はこう明かす。
「約2000台の空気清浄機を販売する大プロジェクトにもかかわらず、医療福祉部のAという社員が、たったひとりで営業から販促まで担当することになったのです。危機感を覚えたAは、医療福祉部のK部長(当時)に営業担当の増員を求めましたが、放置されました。
そこで、Aはプロジェクトの旗振り役だった戸田副社長に直談判し、改善を求めましたが『それはお前の仕事だろ』と突き放されたそうです。結局、約2000台の空気清浄機を販売する予定のところ、30台ほどしか売れませんでした」
上野社長も、戸田建設から約束どおりの注文が来ないことに不信感を覚えていた。
「医療福祉部のN課長に何度も『次の注文はいつになりますか?』といったメールや電話をしましたが、N課長からは『いま忙しい』と言われ、回答を拒否され続けました」
2022年7月13日、戸田建設本社では怒号が飛び交っていた。その一部始終を見ていた同社関係者が語る。
「事態をさすがにマズいと思ったのか、このとき別部署に異動していたK部長が顔を真っ赤にして『俺はこんな契約は知らない! Aが勝手にやったことだ!』と叫ぶと、MCJとの契約書をデスクに叩きつけたんです。契約書はK部長の名前で結ばれていたため、『俺の名前を消せないのか?』と、改ざん指示まで口にしました。N課長も同様に、Aに責任転嫁しました」
実際の販売実績が、MCJと約束した販売台数を大きく下回っていたことに頭を抱えた戸田建設は、K部長とN課長を中心に、契約を解除する方法を探し始めたという。
「K部長は、法務部長に紹介された会社の顧問弁護士とは別の女性弁護士を頼ることにしました。その弁護士は『ゲナノ社製空気清浄機に起きた故障は欠陥品によるものだ、と主張すれば契約解除を迫れるかもしれない』というアドバイスをしたんです」(前出・関係者)
その目論見は、2022年8月26日付の文書で上野社長に届いた。空気清浄機が「欠陥品」だったとして契約解除を主張してきた戸田建設に対して、上野社長はこう反論する。
「欠陥品の例に挙げられた9台の“故障”は、タッチパネルの操作ができない、専用洗浄液を使用していないなど、単に戸田建設側がユーザーに使用方法を十分に説明していなかったことがおもな原因で、言いがかりそのものです」
現在、MCJは、当初の契約どおりの約22億円の支払いを求めているが、戸田建設はそれに応じるどころか、MCJ側の契約不履行を主張し続けているという。
“鶴の一声”で、トラブルの原因を作った張本人の戸田副社長は何を思っているのか。2月20日に直撃したが、「私は担当ではない」「何も知らない」「説明したり、対応する必要はない」と繰り返すのみ。
さらに、戸田建設へ、MCJとの契約トラブルや販売体制の不備について詳細な質問状を送ったが、「個別の取引の内容については回答を差し控えます」とのみ、返答があった。
上野社長は思いを吐露する。
「大企業の“取引先いじめ”に泣かされてきた中小企業は、たくさんあると思うんです。この告発が、そういう人たちの救いになれば嬉しいです」
自らの経営判断で負った“大やけど”を中小企業のせいにするとは、名門企業の名が泣く――。