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マイナカードは未取得「『任意』とは、国は責任を取らんということ!」【泉房穂の「ケンカは勝つ!」第7回】

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.06.23 06:00 最終更新日:2023.06.23 06:00

マイナカードは未取得「『任意』とは、国は責任を取らんということ!」【泉房穂の「ケンカは勝つ!」第7回】

 

マイナ保険証に別人の情報の誤登録7372件」、「別人のマイナンバーに公金受取口座の誤登録748件」、「マイナ保険証で医療費を10割負担させられた例533件」……。マイナンバーをめぐるトラブルが後を絶たない。岸田文雄首相は6月12日、国民に陳謝しましたが、それで済む話やない。

 

 要は、本人と別人を間違えたという話ばかりで、“イロハのイ”やないかい!

 

 

 政府はマイナンバーカード普及のために7、8年かけ、キャンペーンに2兆円も使ってきたのに、初歩的なミスを犯した。しかも、当初は問題を隠していた。トラブルが起きたことを正直に伝えたうえで、「直ちに改善します」と、国民を安心させるべきだった。これでは、個人の大事な情報を国にまかせられんわ。

 

 若干、硬い話になりますが、弁護士の目線でいうと、今回の問題は「国家論」にもつながる。まず、「国家からの自由」が危うくなっている。

 

「国家からの自由」とは、簡単にいえば、「国によって個人のプライバシーが暴かれることはない」「個人の情報は守られる」と、国が保証することです。その最低限の自由が侵されたんです。

 

 そしてもうひとつ、「国家による自由」もある。国民はよりよい生活のために、国に対して社会保障を手厚くすることなどを求める権利がある。それは社会権と呼ばれ、その行使により国が動く結果、得られる自由だから、「国家による自由」といわれます。

 

 要するに、国は国民の利益になる政策をおこなわなければならない。でも、マイナンバー制度は、そもそもなんのために導入するのか、その目的がクリアじゃない。

 

 誤解なきよう言っておきますが、私はマイナンバー制度に、絶対に反対というわけではありません。あえていえば「中立」のスタンス。個人情報が漏れないように対策を万全にするという条件つきで、マイナンバーにはプラスの面もあると思う。

 

 たとえば、児童虐待で多くの子どもが死んでいる。命や生活を守るためには、情報を一元的に管理する必要がある。そのために、マイナンバーは有効やと思います。

 

 明石市では子どもの養育費や犯罪被害者への損害賠償金の立て替えをおこなっていて、それは市民の税金で賄っています。ところが、養育費を支払うべき父親や、賠償金を負担すべき加害者は、明石以外に住んでいることも多い。だから、立て替えたお金の回収は大変です。

 

 ここでマイナンバーがあれば、養育費や賠償金を負担すべき人の収入や資産状況が調べられるようになる。

 

 国はマイナンバーカードを普及させる理由として、「ほかの国も実施している」と説明しています。しかし、アメリカやフランスは、社会保障目的に限定しているんです。

 

 日本みたいに、運転免許証健康保険証、母子手帳までぶち込んでしまおうという国は珍しい。あれもこれも一緒にすると、情報が漏れるリスクが高まるし、すべて紐づけるメリットもわからない。

 

 だって、身分証明のためなら、すでに運転免許証があるし、健康保険証だって、なんで作り直さなあかんねん。お年寄りが困るだけですやん。それに、なんで行政情報に民間の情報まで紐づける必要があるん? そもそも“マイナンバー”という言葉がおかしい。国が勝手に数字を決めるから、「私の数字」ちゃいますやん。

 

 この制度をおこなうことで国民が幸せになれるのか、いままでの不利益が解消されるのか……。議論がほとんどないまま導入されてしまったのが、最大の問題やと思います。

 

 じつは、私は市長時代からいままでマイナンバーカードを取得していません。市長が率先して取得して「全員取れ」と号令をかけるのが普通でしょうが、私は「少数者の味方でありたい」と思ったんです。なかには、マイナンバーカードを取りたくない人もおるやろうなと。だったら、そういう人が取らなくてすむように、私が「最後の一人」になろうと思ったわけです。

 

 もちろん明石市でも、マイナンバーカードを取りたい人がスムーズに取れるように、ちゃんと職員を増やして情報提供や手続きをやってきました。明石市のマイナンバーカード取得率が、ほかの自治体と比べて低いわけでもない。

 

 そもそも、マイナンバーカードの取得は「強制」やなくて「任意」やからね。全員が取らなきゃいけないというなら、義務や強制にすればいいわけで、そうすれば、安全対策は国の責任でやることになるから、もし個人情報が流出したら、国が補償したり賠償できるようになる。

 

「任意」というのは、要は、国は責任を取らんということで、「それやったら遠慮します」という人も当然出てくる。これは新型コロナのワクチンと同じで、打ちたいという人も、打ちたくないという人もいる。健康にかかわる問題ですから、打ちたくない人にも配慮すべきでしょう。

 

 しかも、マイナンバーカードなんて取らなくても命にかかわる話じゃない。取りたくない人がいる限り、明石市長としては、そういう人に寄り添いたいと思ったんです。

 

 それにしても、なぜこんなに次々と問題が起こるのか。国民を見ずに、自分たちの仲間うちでやってるからでしょう。今回のマイナンバー制度は、既得権益を生む典型例。マイナンバーを管轄する総務省にとっては、仕事も予算も増える。広告業界も莫大な広告収入が期待できる。その利権構造に、政治家もつるんでいるはず。まさに、政官財とマスコミがマイナンバーに群がっているという構図ちゃいますか。

 

 マスコミも、かつて「国民総背番号制」が問題になったときには、反対の大キャンペーンを張ったものですが、隔世の感がありますね。当時も個人情報が漏れると問題になった。それは何も変わっていないのに、今回は、マイナンバーカード普及を後押しするような報道ばかりが目立ちます。マスコミも結託しているとしか思えん。

 

 そして、私が絶対おかしいと思うのは、普及のために「マイナポイント2万円」など、札束で頬っぺたを引っぱたくようなキャンペーンであおってきたことです。その札束の原資は私たちの税金ということを忘れてはならない。

 

 人間はニンジンをブラ下げられたら弱いけど、そういう政策はある意味、国民に対する冒涜(ぼうとく)ですわ。「国がお金をあげるからマイナンバーカードを取得してください」。これでは、あまりにみっともない。岸田首相も謝るくらいなら、堂々とマイナンバーカードのメリットを主張すればいい。政治家なら、もっと胸を張れることをやらんかい!

( 週刊FLASH 2023年7月4日号 )

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