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「京アニ事件」青葉真司被告の「妄想供述」を専門家らが断!「彼の言葉には“嘘”があります」「もっとも感じるのは『共感性の欠如』」

社会・政治 投稿日:2023.10.06 06:00FLASH編集部

「京アニ事件」青葉真司被告の「妄想供述」を専門家らが断!「彼の言葉には“嘘”があります」「もっとも感じるのは『共感性の欠如』」

青葉被告は、熱傷患者の専門治療ができる近畿大学病院へ瀕死の状態でヘリで運ばれた。治療を受けた青葉被告が逮捕されたのは、事件から10カ月余り後だった(写真・共同通信)

 

「今の裁判は、彼からすれば“夢を見ている”ような感覚だと思います。彼はそもそも、自分が助かるなんて思ってもいなかったでしょう」

 

 犯罪心理学者の出口保行氏が“彼”と語るのは、青葉真司被告(45)。2019年、36人が死亡し、32人が重軽傷を負った「京都アニメーション放火殺人事件」で、殺人罪などに問われた彼の裁判員裁判が、現在おこなわれている。犯行の動機を「京アニに自作小説のアイデアを盗まれた」などと語っている青葉被告。犯行時に自身も大やけどを負ったが、救命活動により一命を取りとめ、裁判までこぎつけた。

 

 

「この事件は、犯罪心理学でいう『ローンオフェンダー型』犯罪の典型です。一匹狼的で自己中心的な動機から、捕まるリスクやコストなど、失うものの大きさを度外視して犯行に及ぶ犯罪ですね。

 

 青葉被告は、生死の境をさまよい、気がついたら助かっていた。そのため、裁判を受けていること自体に現実味が乏しいのだと思います。ただ、彼は犯行について『現在ではやりすぎたと思っています』とも供述しています。ようやく夢から覚め始め、現実に直面しているのかもしれません」

 

 裁判のいちばんの争点は、青葉被告の責任能力の有無だ。犯行当時の青葉被告が心神喪失状態で責任能力なしと判断された場合、無罪判決が出る可能性も報じられているが……。精神科医の片田珠美氏は「彼には責任能力があると思います」と断ずる。

 

「確かに、被害妄想が犯行の動機形成に大きな影響を及ぼしている可能性は非常に高い。妄想の条件としては『(1)現実離れした不合理な内容であっても、(2)本人が真実であると確信しており、(3)訂正不能(誤りを認めない状態)であること』が挙げられます。

 

『闇の人物に狙われている』『公安に監視されている』という供述から、『妄想型統合失調症』が疑われます。しかし、だからといって即無罪判決が出るわけではありません。犯行時には、新幹線で京都へ行き、ガソリンを買って放火しています。かなり計画的な犯行であり、彼に精神疾患があったとしても、私は彼に責任能力があると思います」

 

 青葉被告の「妄想供述」は裁判でも続き、片田氏は「現在でも『つけ狙われている、迫害されている』という妄想は続いているはず。そうした被害者意識が強い場合、自分の犯行を正当化しやすい」と語る。実際に、彼から謝罪や反省の弁はほぼ出てきていない。

 

 唯一彼が謝罪を口にしたのは、「放火殺人をする対象者に家族、特に子供がいることは知っていたか」という質問に対してのみだ。青葉被告は「申し訳ございません」「そこまで考えなかった」と述べた。

 

 青葉容疑者は、父親が不倫相手と駆け落ちし生まれたが、母親は3人の子供を置いて出奔。父、兄、妹が自殺している。

 

「京アニに対しては、『自分がこれだけひどい目に遭っているんだから、何をやってもいいだろう』という気持ちがあったのでしょう。ですが、その家族や子供については、彼自身の非常に過酷だった子供時代を思い出したのだと思います。親が死ぬと子供がどれほどつらい目に遭うかというのを、身をもって知っている。それゆえに、謝罪という振る舞いに表われたのではないでしょうか」(片田氏)

 

 しかし、彼の謝罪を別の見方をする精神科医もいる。多くの刑事事件で心理鑑定を手掛けた、こころぎふ臨床心理センター長で公認心理師の長谷川博一氏がこう語る。

 

「彼が心底謝罪をしたかは疑問です。というのも、供述を見ていて私がいちばん感じたのは、『共感性の欠如』だからです。多くの被害が出たことについては『(亡くなるのは)8人くらいではないか』と考えていたと、自身の“誤算”を告白し、むしろ被害関係者の感情を損ねることになりました。反省のようなことも供述していますが、自身の行為で傷ついた人の痛みを想像しているように受け取れません。

 

 また、彼は犯行の3日前に現場近くの京アニのショップに立ち寄っていますが、そこに放火しなかった理由として『恨みの対象は京アニ。(ショップには)お客さんがいる』と供述しています。感情ではなく、理屈で語っている。京アニという組織をひと括りにしてとらえていたという論理が読み取れます。喜怒哀楽の多様な感情を読み取ることが苦手で、逆に理屈上のやり取りに終始するタイプだということです。

 

 裁判では、遺族の代理人弁護士に『被害者の立場は考えなかったのか』と聞かれた際、『京アニは(小説を)パクったときに何か感じたのか』『被害者という立場だけ述べて、良心の呵責はなかったのか』と“逆質問”しています。これは、彼がある意味正直で理屈好きゆえの言動でしょう」

 

 青葉被告の供述に“嘘”を見る識者もいる。「京アニ事件」や青葉被告の過去を取材したルポライターの日野百草氏だ。

 

「青葉被告のダメなところは、自身の鬱屈した部分から逃げているように感じる点です。彼は『親父が死んでから一人で生きていこうと決めていた』『誰にも頼らないつもりでした』と、自身の半生について供述していますが、そこには嘘があります。21歳で父を亡くして以降も、彼は離別した母親を頼っており、茨城県で一緒に暮らしています。

 

 青葉被告は、自身をたくましい存在だと思おうとしているのでしょう。彼は高すぎるプライドゆえ、自分と正面から向き合うことがなく中高年になってしまった“子供おじさん”に映ります」

 

 筋違いの恨みによる復讐劇が、36人もの尊い命を奪ったのだ。

( 週刊FLASH 2023年10月17日・24日合併号 )

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