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家族葬ホール増加で住民とのトラブル続出…京都では「事前説明なし」「威圧的態度」専門家は「要綱無視は大問題」と指摘

社会・政治 投稿日:2024.01.14 06:00FLASH編集部

家族葬ホール増加で住民とのトラブル続出…京都では「事前説明なし」「威圧的態度」専門家は「要綱無視は大問題」と指摘

敷地を覆うフェンスの中では粛々と工事が進められていた

 

■らくおうの反論

 

 なぜ、らくおうは住民や市から批判されるような強引な形で建築確認を申請したのか? らくおうの弁護士は取材にこう答えた。

 

「建築確認は、決して秘密裏に申請したものではありません。まず、本申請の約1カ月前の7月1日に事前申請をおこないました。本申請は、審査機関が30日以内に結論を出さないと却下されたことになる。なので、書類の不備等がないかをあらかじめチェックするために、実務上、事前申請という形を取りました。

 

 事前申請については、京都市はご存じのはずです。というのも、事前申請をしてしばらくたった7月26日に、京都市の建築指導課からメールで、『建築確認申請は、今の計画で着工するという意思表示と受け止められるので、しっかり住民側の意見を汲んで調整のうえ、申請をおこなってください』と伝えられ、それは事前申請の認識があったからこその内容だと思います。

 

 また、この返事の内容に対しても即反論しました。指導要綱のどこを見ても、住民の合意ができるまでは建築確認を申請してはならない、あるいは葬儀場を建ててはならないとは書かれていない。

 

 そもそも指導要項とは、自治体からの『お願い』でしかない。その指導要綱にすら書かれていない、『住民との合意ができるまで建築確認を申請してはならない』という命令とも受け取れるメールが来たので、『それは法的におかしい』と言わざるを得なくなったわけです。

 

 仮に葬儀場建設に住民の合意が必要というルールがあったとすれば、もはやどこにも建てられません。それも営業の自由の侵害で、市民の権利を奪うことになります」(弁護士)

 

 すると同日、京都市はすぐに返信してきたという。

 

「その趣旨は、建築確認申請は指導要綱とは別物なので手続きを進めてかまわないし、指導要綱についてはあくまでも市からのお願いだ、というものでした」(同)

 

 つまり、市は建築確認申請についてあれこれ言うことはできないとして、らくおうの主張を認めたということだ。

 

■京都市の主張

 

 らくおうの建築確認が下りていたことについて、京都市は本当に知らなかったのか? 同市建築指導課に見解を取材した。

 

「把握していませんでした。市ではなく民間の検査機関に申請されたため、タイムラグが発生してなかなか把握しきれなかったと前任者から聞いております。

 

 事前申請についてはすでに知らされていましたが、当時はまだ『まちづくり委員会』で住民の請願を審議している最中だったため、その段階でまさか本申請をおこなうとは思っていなかったとのことでした」

 

「まちづくり委員会」において市は、建築確認の申請は住民との合意ができた後におこなうものだという認識を示したが、実際にはらくおうがその手順を踏まなかった。それについてはどう考えるのか?

 

「まず指導要綱について、勘違いされている方もいらっしゃるかもしれませんが、葬儀場をここに建ててはいけませんと規制するようなものでは決してありません。市には建築確認申請や着工を止める権限はありませんし、やってはいけないとは言えない立場です。

 

 では、何を事業者に指導しているのかというと、あくまでも葬儀場の建設は前提として、住民の要望や意見をできる限り取り入れたものにするということです。

 

 つまり、市が意味する住民との『合意』とは、建物の内容についてのもの。葬儀場を建てること自体に合意が必要だとは決して言っていません。

 

 葬儀場は社会のなかで必要な施設だと考えています。また、事業者にも営業の権利があるわけで、ある地域で、特定の業種だけを規制することは行政にもできません」(建築指導課)

 

 この発言から、市と「守る会」の「合意」についての認識が異なるものだとわかる。市の意味する合意は、あくまでも建設を前提に、事業者は建物の内容に住民の希望をなるべく取り入れるべきというもの。一方、住民側の合意は、葬儀場を建てるか否かについてのもの。そもそも前提が違い、互いに話が噛み合っていないのだ。

 

■第三者の専門家の見解

 

 この紛争について、第三者の専門家はどう見るのか。京都の開発事情に詳しい飯田昭弁護士に尋ねた。

 

「太秦の事例で注目すべきは、映画を中心とした文化芸術の街にそぐわない建物が突然建てられようとしていること。また、地域住民からは建設に反対する激しい怒りが噴出していること。そして、家の前を霊柩車が何度も行き来するなど、葬儀場の営業が住民の生活環境やメンタル面に大きな影響を与え得ること。それらはすべて、『人格権の侵害』に当たる可能性があります。

 

 また、らくおうは、かなり強引に建設を進めようとしてきた。たとえば、指導要綱違反。たしかに法的拘束力は弱く、指導要綱に従わなかったからといって、ただちに建設差し止めとはならないでしょう。

 

 しかし、指導要綱はこれまでに京都市で葬儀場建設に関する紛争がいくつも起こった経緯から、地域の環境と住民生活を守ろうとしてつくられたもの。そうした背景から生まれた要綱を、らくおうが軽視してきたのは由々しき問題です。

 

 さらに、建築確認を申請する際も、住民に事前説明をしないなど、正当な手順を尽くしていません。

 

 こうした紛争によって、最終的に事業者が撤退するケースは実際に見られます。それは法律に違反したからではなく、報道などを通じて反対世論が巻き起こるといったダイナミズムが働いた結果なのです。今後も、住宅密集地での葬儀場建設の問題は頻発すると思われ、私たちは注視していく必要があります」

 

 葬儀場は国民生活に必要な施設だが、身の周りには建ててほしくないという典型的な社会的ジレンマだ。一筋縄ではいかないが、事業者はていねいに説明をおこない、住民はそれに真摯に向き合って互いの妥協点を見出すしかない。

( SmartFLASH )

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