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「たとえるなら牙と爪を持ったランボー」ヒグマ駆除出動「辞退」表明の猟友会が考える「命をかける値段」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.05.24 18:50 最終更新日:2024.05.24 18:50

「たとえるなら牙と爪を持ったランボー」ヒグマ駆除出動「辞退」表明の猟友会が考える「命をかける値段」

2023年に駆除された「忍者グマ」OSO18(写真提供・北海道釧路総合振興局)

 

 2019年から4年間にわたり、北海道東部で66頭もの乳牛を襲撃し、酪農家たちを恐怖に陥らせた巨大ヒグマ「OSO18」。2023年8月に駆除されるまで、人前に決して姿を現さず、痕跡を残さない用心深さから「忍者グマ」の異名をとった。

 

「忍者なんてもんじゃない! クマという獣をたとえるなら、米軍の特殊部隊員、それも、牙と爪を持った“ランボー”を相手にするようなもんなんだよ」

 

 そう熱っぽく語るのは、北海道猟友会・砂川支部奈井江部会の山岸辰人部会長(72)だ。5月21日、北海道北部の奈井江町に対し、地元の猟友会は、クマが出没した際のハンター出動を辞退する方針を表明。害獣駆除のあり方に、大きな一石を投じることとなった。

 

 

 とくに注目を浴びたのが、出動時に町から支払われる報酬だ。奈井江町が提示した額は、基本的な日当が4800円、出没地周辺の見回りなどヒグマ対策が3700円、発砲した場合は1800円が加給されるというもの。報酬は近隣自治体によってまちまちではあるが、たとえば札幌市の場合、巡回だけで2万5300円、浦臼町は出動で1万5000円が支払われる。単純に比較しただけでも、奈井江町の提示額がかなり低い金額であることがわかる。

 

《相手はヒグマだもんな。時給換算でコンビニのアルバイト程度では、命がけの仕事に見合った報酬とは言いがたい》

 

《自治体も予算が厳しい実情があるのだと思うが、こんなやり取りをしている間にも家畜も人命も危険にさらされ続けるし、ヒグマも増殖してしまう》

 

《マタギなど生業としてる人とは違い、請われて出ていくんだからそれなりの報酬はあげるべきでしょう》

 

 このことを報じたYahoo!ニュースのコメント欄は、猟友会の決断に理解を示す声がほとんどを占めた。

 

 一般には理解されていると言いがたいのが、野生のクマと対峙することの恐ろしさだ。前出の山岸部会長が語る。

 

「俺が猟に出るときはいつも単独だけど、いままで4回ほどクマに出くわして、やられると覚悟したこともある。彼らのフィールドのなかで戦うわけだよ。彼らは音もなく近づき、どこから来るかわからない。たとえば、胸元程度まで成長したトウモロコシ畑で、腕3本分向こうの距離を、250kgあるクマが俺の横を匍匐前進して通りすぎても、察知できない。俺たちハンターが風上にいたら、100%、やられるからね。5km先のトウモロコシの花が、開いた匂いも嗅ぎわけるのがクマなんだ。みなさんは駆除と簡単に言うけど、どれくらい危険をともなうのか、理解できるかっていう話でもある」

 

 では、自らの命を危険にさらし、獰猛なクマの駆除を引き受ける“対価”は、いくらぐらいが妥当なのだろうか。

 

「我々が案として要求したいのは、クマの駆除のための緊急出動が、ひとりあたり4万5000円。これは、国や北海道、JR北海道がこれくらい出しているという話で。見回りも5分や10分で終わる話じゃないし、だったら巡回なども、1名につき最低1万5000円。それが高いか安いかだよ。たとえば、北海道電力が送電線のパトロールをやる際、護衛の依頼がある。北海道電力の場合、1日、3万5000円出るわけ。だから、駆除云々でいえば、そのあたりが標準になるのかなという思いはある。

 

 我々にできることは、引き金をひくことだけなんだ。“金の亡者”といった批判もあるかもしれないけど、国民のみなさんに、もっと考えてほしい。全国のハンターの代弁のつもりです」(山岸氏)

 

 人間とクマの暮らす境界が曖昧になりつつある昨今。金銭面で揉めている間に、被害が拡大することはあってはならない。

( SmartFLASH )

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