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オリックス中嶋監督の “捕手采配” は “ノムさん流”…野村克也監督の元個人マネージャーが見た「去年」との違い【日本シリーズ詳細分析】

スポーツ 投稿日:2022.10.31 20:27FLASH編集部

オリックス中嶋監督の “捕手采配” は “ノムさん流”…野村克也監督の元個人マネージャーが見た「去年」との違い【日本シリーズ詳細分析】

日本シリーズ制覇で、胴上げされるオリックス中嶋監督(写真・桑原靖)

 

 2022年は、オリックスバファローズが日本シリーズを制した。東京ヤクルトスワローズとの日本シリーズは2年連続となり、僅差の試合が多かったゆえに見応えがあった。

 

 2年連続同一カードでの日本シリーズというと、1992~93年の西武ライオンズvs.ヤクルトスワローズが思い出されるが、2年連続の日本シリーズとしては、それ以来の名勝負といってよいのではないか。当時も、1992年は西武が日本一となり、翌年はヤクルトがリベンジをはたした。

 

 

 私自身、野村克也監督の個人マネージャーを15年近く務めた経験から「監督ならどう評論するだろう」という視点で試合を観ることがクセになっている。今シリーズも、監督なら評論すべき場面がたくさんあっただろうが、なかでも捕手の起用法については必ずふれたであろう。

 

 監督は常々、日本シリーズのような短期決戦では一球のミスも許されない以上、捕手が重要であり、一人の捕手を起用しつづけることが理想的だとおっしゃっていた。

 

 相手打者のすぐ近くで観察しつづけることにより気づくことも多く、間違いのないリードが可能になるというのだ。そして、「そのような緊張感あふれる日本シリーズを経験した捕手は、大きく成長する」というのが持論だった。

 

 2021年の日本シリーズ、ヤクルトは中村悠平捕手がフルイニング出場した。そして今シリーズでも、高津臣吾監督は中村捕手をフルイニングで起用した。

 

 2021年の中村捕手は日本シリーズでの打撃が好調で、.318の打率を残してシリーズMVPに輝いたので、打撃面の理由から外せなかったのかもしれない。しかし、2022年の中村捕手のシリーズ通算打率は.207だったにもかかわらずフル出場した。

 

 やはり、高津監督は、野村監督の捕手起用法を踏襲されているのではないかと思う。

 

 一方、オリックスの中嶋聡監督は、2021年に引き続き伏見寅威捕手と若月健矢捕手の2人の捕手を併用した。野村監督の考え方と違うじゃないかと思われるかもしれないが、野村監督も捕手の併用について完全に否定していたわけではない。

 

 具体的に言っていたのは、近鉄時代の西本幸雄監督が梨田昌孝捕手と有田修三捕手を併用していたことである。これについて野村監督は「投手との相性とか要望とか、いろいろあってそうしているんだろうな」と、一定の理解を示していた。

 

 しかしながら、日本シリーズにおける中嶋監督の捕手起用法も、前年とは相違点があった。2021年は1試合のなかで捕手を代えるケースが6試合中4度あったが、今シリーズは7試合中1度だけ。しかも、第7戦での捕手交代は、二塁打を放った伏見捕手が二塁ベースを踏んだ際に足を痛めたことによるもので、予定外の交代だったと思われる。

 

 さらにいうと、2022年は福岡ソフトバンクホークスとのクライマックスシリーズ4試合でも、捕手の途中交代は一度もなかった。つまり、2021年と異なり、短期決戦では1試合のなかで捕手を代えないという方針だったのではないか。

 

 中嶋監督は北海道日本ハムファイターズに在籍していたとき、「抑え捕手」と呼ばれていた時期があった。9回にクローザーが登場する場面で、キャッチャーも中嶋捕手に交代するのである。

 

 当時の日本ハムのクローザーはマイケル中村投手で、私は中村投手の代理人やマネジメントを務めていたのでよく覚えている。中嶋監督にはそんな現役時代の経験があったからこそ、元来、試合途中で捕手を交代させることに抵抗はなかったのだと思う。

 

 2021年の日本シリーズで、オリックスが捕手交代後に失点したのは第1戦と第6戦。第1戦では7回裏、若月捕手の代打モヤ選手が同点本塁打を放ったが、伏見捕手に交代直後の8回表に逆転を許すも、最後はサヨナラ勝ちしている。

 

 第6戦は9回裏に若月捕手に代打を送り、伏見捕手に交代。延長12回表に1点を失い敗戦した。そのほかの2試合では、捕手交代後に失点はしていない。そして今回の短期決戦では、1試合の中では捕手を交代しない方針へと転換した。

 

 2021年の第1戦や第6戦での失点を重く見たのか、それともほかの理由があったのか、大変興味深いところだ。野村監督だったら、中嶋監督のこのような変化をどのように評論していただろうか。

 

 ヤクルトに話を戻すと、もし2022年に日本一になっていたら、球団史上初の日本一連覇で、それは野村監督でも成し遂げることができなかった快挙になるはずだった。野村監督のことだから、高津監督には是が非でも達成してほしい、自分を超えてほしいと願っていただろう。

 

「連覇は難しい。優勝するとどうしても俺自身がホッとしちゃう。それが翌年のキャンプの態度に出ているんだろうな」と振り返っていた野村監督。

 

 1992年、現役時代から同じ捕手としてライバルだった森祇晶監督率いる西武に日本シリーズで敗れたことで、1993年は是が非でも西武を倒すと決意して、リーグ連覇と日本一を達成。しかし24年間の監督生活で、リーグ連覇はこの一度だけだった。

 

 2022年は惜しくも「野村監督超え」を逃した高津監督だが、まだその可能性は残っている。リーグ3連覇は、野村監督も達成したことがない。

 

文・小島一貴(元MLB通訳)

( SmartFLASH )

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