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ダルビッシュ有、データ信奉で「考えなくなった」野球に危機感 …元祖「ID野球」のノムさんならどう思うのか

スポーツ 投稿日:2023.01.30 21:35FLASH編集部

ダルビッシュ有、データ信奉で「考えなくなった」野球に危機感 …元祖「ID野球」のノムさんならどう思うのか

パドレスのダルビッシュ有(写真・共同通信)

 

 3月に開催されるWBCのメンバーに選ばれたパドレスのダルビッシュ有と、2009年大会でともに戦いMLBでも活躍した川﨑宗則の対談が、1月15日の『S☆1』(TBS系)で放送された。

 

 番組でダルビッシュは、近年目覚ましく進化している選手の動作の「解析技術」について言及。現在のMLBでは、試合中のプレーがリアルタイムでデータ化され、それをもとに瞬時に選手は修正が可能という。

 

 

 かつては変化球の投げ方ひとつ取っても、キレのある変化をいかにボールに加えるか、投手たちは自ら研究し、しのぎを削ったが、これもいまはデータからすぐに具体的な「答え」が出る。

 

「ベースボールドクター」という異名を取るほど、多くの打者のデータを収集する分析家として知られるダルビッシュだが、データに頼りすぎる現状に懸念を示す。

 

「たとえば10年前、15年前ぐらいにそんなに変化球を投げられなかった投手が、いまの時代はみんな投げられるようになってしまう。そういう意味ではつまらないんですよ」

 

 イチローが2019年の引退会見で語った「野球は本来、頭を使う競技だが、そうでなくなってきている」という言葉が最近腑に落ちるようになったといい、選手たちが「考えなくなっている」とも指摘する。

 

 MLBでは “AI審判” の導入が議論されるなど、野球のあらゆる面で「データ化」が進む。「データ野球」といえば、日本のファンは「ID野球」を提唱した故・野村克也氏を思い浮かべるだろう。いま、ノムさんがここまで進化した解析技術を見たら、なんと言うだろうか――。

 

 ノムさんの元マネージャーで、日米間移籍選手の元代理人の小島一貴氏がこう語る。

 

「野村監督は『ID野球』という表現を使って、まさにデータ重視の野球を掲げていましたが、よくよく話を聞くと、たとえば『データに振り回されてはいけない』とか、『その日の選手の表情や雰囲気はデータを超える』といったことも言っているんですね。

 

 野村監督が楽天をやめた2009年くらいまでは、当日や直近の調子などはすぐにデータに反映されなかったので、とにかく監督は選手の様子を自分の目で確かめて、決断していました。

 

 元キャッチャーらしい発想かもしれませんが、『データよりも観察することのほうが大事だ』と言っていました。ID野球といってもデータはあくまで目安で、データだけでやっているわけじゃないという感じでしたね。

 

 いまのメジャーの野球というのは、たとえば『このバッターの打球は何パーセントこっちに飛ぶから、一、二塁間に野手3人を置くんだ』というように、選手の調子など関係なくデータ第一の印象です。

 

 一方、野村監督は『緩いカーブを引っ張ってファウルにした後に真っすぐを反対方向にファイルにしたから、これはどっちの球種にも対応するスイングをしているんだな』とか、『真っすぐを引っ張ってファウルにしたから真っすぐ狙いだな』といった、観察を大事にしていました。

 

 そういうバッターとピッチャーの駆け引きが、いまのメジャーではあまり見られません。このコースにこの球種が弱いからそれを多投する、みたいになっています。

 

 とくにリリーフは、スライダーしか投げないような極端なピッチャーもいるわけです。もともと野村監督は『メジャーではあんまり配球を考えていない』と言っていましたが、テクノロジーが向上した結果、効率性や確率重視の傾向がさらに強まっています。

 

 ここまでデータが細かく出るようになった現状を見て、監督がなんと言うかは非常に興味がありますね。常々監督はピッチャーについて、速球派であろうと技巧派であろうと、ストレートが大事だと言っていて、ストレートもスピードはただの目安で、『スピードガンの “スピード” があっても “スピード感” がないのはダメ』みたいなことを言っていたんです。

 

 つまり、ボールの質にこだわっていた。おそらくそれは、いま『回転数』と呼ばれるものに相当すると思いますが、当時は肉眼で見ていた監督に回転数を伝えても、『そんなもん見りゃわかる』と言うかなという気もしますし、逆に『便利だからどんどん使え』と言うかもしれません。

 

 AI審判は、監督だったら反対しそうですね。人がやるほうがいい、と。いまのビデオ判定制度にも反対する気がします」

 

 ダルビッシュが語った「考えなくなっている」という言葉についてはどうだろうか。

 

「野村監督は『考える』ことこそ野球の本質であり、『武器』だと言っていました。才能のない選手こそ考えるべきだとも。だから、ダルビッシュ選手の話に同意するはずです。

 

 ダルビッシュ選手の場合は、才能があるうえ、長年ピッチングを研究しているので、回転数や腕の角度などのデータがなくても、なんらかのズレが生じたとき、自分で修正できるのだと思います。データがない時代から、自分で考えることを習慣にしてきた結果、身についた修正能力でしょう。

 

 これに対して、才能に乏しい普通の投手は、データのない時代なら難しかったけれど、いまはデータのおかげで修正できる部分があります。かつて一流選手は研究や努力を重ねて技術を習得したのに、テクノロジーのおかげで簡単に変化球が投げられるようになったのは、選手ではない人間からしてもおかしいなと感じますよね」

 

 同対談でダルビッシュは、日々考えたことを「野球ノート」に記し、多くの選手が球団のデータ班に頼る「ゲームプラン」もまずは自ら組み立て、あとからスタッフと「答え合わせ」すると語っている。

 

 WBCでは、長年の研究成果を生かした熟練の投球を見せてほしい。

( SmartFLASH )

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