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サッカー選手「ダイヤの原石」はどうやって探すのか…現役スカウトが明かした情報の集め方
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2024.03.03 11:00 最終更新日:2024.03.03 11:00
2002年以来、サッカーというスポーツに様々な立場で関わってきた。ある時はプレイヤーとして、ある時はサッカーカードゲームのコレクターとして、ある時はハンガリーのアマチュアサッカーグループ代表として。
そして2023年1月現在は、イギリスのプロクラブのスカウトとしてこのスポーツに従事している。筆者はイングランド2部所属のストーク・シティ、そしてスコットランド1部所属のマザーウェルで働くスカウトである。
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スカウトとはサッカー選手の発見、情報収集、評価を担当する役職のことだ。日本では選手を探してくる人=スカウトマンと呼ばれることも多いが、イギリスではスカウトという呼び方が一般的。
多くのスカウトはフットボールクラブで働いているが、イギリスではフリーランスのスカウトも存在するし、データを収集するスポーツベッティング企業、仲介人業を営むエージェンシー、将来の広告塔を探すスポーツブランドにもスカウトが在籍している。
「マンチェスター・シティのスカウトが三笘薫を視察。今夏移籍か」
この類いの見出しを見たことがないフットボールファンはいない。移籍シーズンが近づいてきたら、もしくは誰かが爆発的な活躍をしたら、必ず目にする見出しである。
選手の移籍はこのような「××が△△に興味津々!」的な記事から始まり、最終的にはクラブによる公式の獲得発表まで辿り着くか、(大半はこちらだが)そのまま噂レベルで消えることになる。
だが、この選手発掘から獲得までの具体的な工程が公開されることは少ない。
そこでまず、スカウティングの全体像を紹介したい。大きく分けてタレントの「発掘」「確定」「アクイジション(獲得)」の3つだけである。クラブに連れてくるタレントを選び、そのタレントが本当にクラブに必要かどうかを分析し、獲得する。
「発掘」とはその名の通り、ダイヤの原石(タレント)を見つけ出すこと。手段に正解はなく、リーグなどが規定するレギュレーションに触れすぎない範囲で、なんでもリソースを使ってよい。新聞に載っている先週のベストイレブンを参考にしてもよいし、SNSで騒がれている選手を追ってもよい。
「触れすぎない範囲で」と書いたのは、昨今のタレントをめぐる競争において、クリーンすぎるアプローチでは他のクラブに出し抜かれると考え、多少レギュレーションに触れてでも選手の情報を取得しにいくクラブは存在するからだ。
例えば、9歳の選手と彼を1人で育てた母親を、閉店後のロンドンはオックスフォードサーカスにあるナイキタウンへ連れて行き、「手にするものなんでも買ってあげるよ」と選手を誘ったり、あるいは親に給料の良い仕事を紹介したりと、結構なんでもあり。
悪いのかどうかと言われたら、視点にもよるが、金銭や景品などで選手を誘うことは基本的にはリーグのレギュレーションで禁じられている。
クリーンな方法でいうと、自分の担当クラブの試合へ行き、選手を直接視察する情報取得だ。
多くのクラブではシーズン初めに、各スカウトを担当エリアの全クラブに数回送り、一通りの選手情報をさらっておく。スカウトとしても、この方法は実際に間近でパフォーマンスを見ることができるため、選手のパフォーマンス評価に対して自分の中での確信が生まれやすい。
この手法の最大の利点は、移籍の意思決定者に「この選手はどうか?」と聞かれた際に、自信を持って意見を伝えることができる点だ。
筆者がスカウトのキャリアを始めた当初、“Say what you see, not what you are told.”(自分が見たものを伝えろ、聞いたことではなく)とよく言われた。
まあ他人から聞いた情報でも正確で信憑性が高く、有益なものも実際多いが、ちゃんと情報のクオリティをチェックしておくのが大切ということだ。
落とし穴としては、目で見るスカウティングには常にバイアスや認知のエラーがつきまとうため、必ずしも目に見えて頭に残っていることが正確ではないことに気をつけたい。
また、他のスカウトから情報を聞く方法も一般的。実はイングランドでは、スカウト間の情報交換がかなり盛んだ。スカウトと聞くと、秘匿主義者で、個人個人で仕事をしている印象をお持ちの方もいるかもしれないが、話しかけてみると案外オープンな方が多い。
そして、何より話好きである。
「××は△△に移籍するみたいだ。ただ、俺はいいとは全然思わないがね」
「俺はあのMF(ミッドフィルダー)とサイドバックを見にきた。サイドバックは良さそうだな。お前はどう思う?」
など、情報や意見はオープンにシェアする。
というのも、スカウト網が張り巡らされているイギリスでは良い選手やタレントというのはバレきっていて、その選手のパフォーマンスの情報だけで獲得が決まることは少ないからだ。
実際にその選手を獲得できるかどうかは、クラブの意思決定者に委ねられており、そこには移籍金やクラブの地位、選手のキャリアプランなど、スカウトの手が届かない要素が複合的に影響する。
そして、代理人と良好な関係を築くことも選手情報の取得に欠かせない。選手を獲得するとなると、現在のクラブでの出場機会、契約を延長するかどうか、選手の移籍に対する興味の有無など、パフォーマンス以外での情報も鍵となる。
また、イングランドでは選手がアカデミーから放出される際に、多くのクラブが放出選手を対象としたパフォーマンスレポートを作成する。プレースタイルの分析、試合の映像、フィジカルテストの結果、怪我の履歴などが載っており、信憑性のかなり高いドキュメントだ。こういったものも代理人からシェアしてもらう。
それ以外にも、代理人が契約を結んでいる育成年代の選手を集めて、クラブチームと試合を行う「ショーケースゲーム」と呼ばれるイベントもあり、彼らとつながることで初めてアクセスできる。
ショーケースゲームは各エージェンシーがピッチを借りて行うトライアウトだと考えるとわかりやすい。特に育成年代で多く、アカデミーから放出された選手を集めたものやアマチュア出身の選手で構成されたものなど、様々な種類のショーケースゲームが存在する。
自分が気になった選手を事前に伝えておけば、その選手に声をかけて試合に呼んでくれることもある。そういった情報を日頃から獲得するのもスカウトの大切な仕事だ。筆者も毎日1時間ぐらいは代理人とのコミュニケーションに割いている。
これらの方法に加え、最近ではソーシャルメディア、スカウティング系のアプリを活用することも必要だ。筆者自身もエージェンシーや育成年代の選手情報をまとめているアカウントをフォローして、これから世に出てくる選手を探している。
特にアカデミーの若い選手は自分の試合映像を切り取って、インスタグラムに積極的に投稿する。アカデミーの映像は基本的にそのクラブの分析官やコーチぐらいしかアクセスするルートを持っていないため、こういった映像は貴重である。
それ以外にも選手の誕生日パーティーの投稿から年齢を割り出すことに使っている。レギュレーションに沿って使用すれば、ソーシャルメディアはスカウトの強力な武器だ。
スカウティング系のアプリで有名なのは、マンチェスター・ユナイテッドのユース出身の人が作ったSkoutedと呼ばれるアプリ。このアプリでは選手自らがポジションや年齢、今までのキャリア、現在の所属クラブをプロフィールに載せ、自らのプレー映像のリンクまでプラットフォーム上にアップすることができる。
スカウトが登録すると、データベース上の選手を検索し、その選手にメッセージ機能で直接連絡を取ることができる。アーセナルアカデミーがこのアプリを使用して選手を獲得したことで話題になった。
以上のように選手の情報を集める手段はいくつもあり、これ以外にも、サッカーファンにはおなじみのサイトであるtransfermarktを使用したり、地方新聞のジャーナリストにコンタクトを取って情報交換したりして、選手情報を集めるのだ。
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以上、田丸雄己氏の新刊『スカウト目線の現代サッカー事情 イングランドで見た「ダイヤの原石」の探し方』(光文社新書)を元に再構成しました。データ分析、移籍の裏側など、ベールに包まれたスカウトの仕事を明らかにします。
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