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井上芳雄、亡き社長の言葉を胸に舞台へ「お前の歌を世の中が必要とする」

エンタメ・アイドル 投稿日:2021.05.13 11:00FLASH編集部

井上芳雄、亡き社長の言葉を胸に舞台へ「お前の歌を世の中が必要とする」

 

 創業41年になる、有楽町のガード下の老舗ドイツ料理店「バーデンバーデン」には、井上芳雄の思い出が詰まっている。

 

“ミュージカル界のプリンス” と呼ばれる井上の定位置は、店を入ってすぐ右のバーカウンター。壁には先代オーナー・曽根崎武男さんの写真が多数飾られ、若かりしころの井上の姿もそこにある。

 

 

「このお店にはお世話になりっぱなしで、たんに行きつけと呼ぶには思い入れがありすぎて……。本当に社長(武男さん)にはよくしていただきました。亡くなって11年になります」

 

 舞台がはねた後の打ち上げには奥の広いホールも使うが、少人数や一人で訪れる際は必ずここに座り、店自慢のシュニッツェルとともに生ビールを楽しむ。

 

 武男さんと自身のツーショットを眺め、井上は回想する。

 

「以前経営されていた別のお店で、(2000年の)デビュー作『エリザベート』出演時に、先輩に紹介されたのが社長との出会い。(2002年初演の)『モーツァルト!』への出演が決まった際、モーツァルトの故郷を訪れるべきだと言われ、連れていってくださって。

 

『エリザベート』もウィーンが舞台なので、オーストリアには行ったことがあったんですが、ザルツブルクは初めてでした」

 

 井上の来訪を知らされ、久々に店に顔を出した武男さんの妻・曽根崎美津子さんが語る。

 

「帝国劇場や芸術座(2005年閉場)など劇場が近いせいか、金子信雄さんや池内淳子さん、司葉子さんらがよく店にみえました。金子さんとは馬が合い、主人も料理を作るようになったんです。でも、芳雄さんに対しては特別。実の息子以上にかわいがっていましたね」

 

 武男さんはまず井上の人柄に惹かれ、次に舞台を観に行き、「その才能の虜になった」(美津子さん)という。

 

 井上が店に来たときは代金を一切受け取らず、徹底的に世話を焼いた。いわば次世代への投資だった。

 

「当時、社長に言われたんですね。『お前の歌を、きっと世の中が必要とするときが来る。歌の才能という、素晴らしい贈り物をもらったんだから、それをしっかり生かさないといけないよ』と。

 

 少し買いかぶりすぎだと思ったんですが、今思うと本当にありがたい言葉をもらいました」

 

左上から時計回りに、シュニッツェル(1320円)、ドライカレー(979円)、手作りグリルソーセージの盛り合わせ(1848円)、自家製アイスバイン(S・1925円、M・2420円、すべて税込み)

 

■小4の初観劇でミュージカルの虜に

 

 大学教授の父はザ・ビートルズなどの洋楽を、教員だった母は加藤登紀子や中島みゆきといったフォークソングをよく聴いていた。

 

 自身も幼少期から教会に通い、聖歌隊に所属した。歌い手になる下地はあったが、決定的な機会は偶然訪れた。小学4年で劇団四季の『キャッツ』の、地元・福岡での公演を観に行ったときだ。

 

「それが初観劇でした。思いもしない世界が広がっていて、俳優になりたいとかじゃなく、ただ『キャッツ』に出たい、出るにはどうすればいいんだろうと調べだしたんです」

 

 専門誌を隅から隅まで読み、井上少年はすぐいっぱしのミュージカルおたくになった。

 

 その後、父のアメリカ赴任に一家でついていき、本場・ブロードウェイでも観劇したが、「楽しみにしすぎて、よく覚えていない」と印象に残っておらず、本場の舞台に立つより、むしろ日本のミュージカルを究めたいと思った。

 

「本格的なミュージカルは、日本ではまだ歴史が浅い、発展途上ながら伸びしろのあるジャンルなんです。

 

 もともとはアメリカの劇を翻訳してきたので、日本語と英語の壁がある。観る側はいきなり歌ったり踊ったりすることへの抵抗感も持っている。

 

 日本人は欧米人に比べ、感情をあまり表に出さないということもありますが、僕にとってミュージカルは感情を爆発させる場なんです」

 

 井上の舞台の映像をいくつか確認すると、「間」がほかの日本人の演者と違うことがわかる。ブロードウェイのスターと同じく、井上は会話から歌へ自然に移行できるのだ。

 

「音楽にはその役の気持ちにさせる力があります。大竹しのぶさんも言っていたんですが、普通のお芝居と違い、『ミュージカルは音楽が感情を持ち上げてくれる』って。

 

 だから、『ウエストサイド・ストーリー』や『サウンド・オブ・ミュージック』のように物語をわかっていても、何度も同じ場面で笑って泣けるんです」

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