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川口春奈『silent』心の芯にグリグリ刺さった名作だが…続編や映画化はやめてこのまま終える「美学」に期待【ネタバレあり】
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.12.23 15:14 最終更新日:2022.12.23 15:19
ごくごくありふれた普通の、でもそれでいて普通じゃない特別な物語だった。
12月22日に最終話を迎えた『silent』(フジテレビ系)。主人公・青羽紬(川口春奈)が、聴力を失った元彼氏・佐倉想(Snow Man・目黒蓮)と高校卒業後に別れて以来8年ぶりに再会し、手話を通じて関係を再構築していく純愛ドラマだ。
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この2人のほかに、紬と想の高校時代の同級生で、紬と3年前から付き合っていた戸川湊斗(鈴鹿央士)、想に片想いする生まれつきのろう者である桃野奈々(夏帆)も関わってきた。
本作は、視聴率はいまいちだったものの、第1話から「泣ける」と大きな話題となり、TVerの見逃し配信再生数の最高記録を更新。TVerのお気に入り数は249.0万人(12月23日現在)になっており、今期1の大ヒットドラマと言っても過言ではないだろう。
ここからは恋愛コラムニストである筆者が、ネタバレありで『silent』最終話について語らせていただく。
■【ネタバレあり】弱音を吐露する想の強さ
迎えた最終話。
想が紬に「一緒にいるほど、好きになるほどつらくなっていく。声が聞きたい。もう聞けないなら、また好きになんてならなきゃよかった」と伝え、また彼女の前から去ることを示唆していたが、はたして……という展開。
結論を言うと、2人は母校の教室でお互いの気持ちを伝え合い、これからも一緒にいることを選ぶ。
この母校の教室のシーンで、想は紬に、「この先も一緒にいればつらいと思うことが増えていくと思う。そのたびにこの前みたいに青羽に当たるかもしれないし、次は本当にもう会いたくないと思うかもしれない」などと本音を吐露。
しかし、最終的に「それでも今は 一緒にいたい」と伝え、ハッピーエンドという流れだった。
とは言え、一見すると大きく不安要素が残るシーンでもあった。
ここで想が、「もう大丈夫、一緒にいたいという気持ちは一生変わらない」と断言すれば大団円に思えるが、そんな揺るがない決意を語ることはなく、むしろ「次は本当にもう会いたくないと思うかもしれない」などと弱音を吐いているからだ。
けれど、筆者はこの想の脆い言葉から、彼がようやく “自分の弱さを受け入れる強さ” を身につけたのだと解釈した。
大好きな人に自分の弱い部分をきちんと見せたうえで、それでも受け入れてほしいと伝えるのは一定以上の強さが必要。嫌われたくないという気持ちが大きくなるほど、弱さを見せることがためらわれるからだ。
そのため、心が弱い人間ほど自分の脆さを隠そうと虚勢を張って、“揺るがない決意” ふうの言葉を言いがちだ。
だから、紬にきちんと弱音を吐けた想は、心が強く成長したのだと感じた。
そういう意味で言うと、紬は第1話から最終話までずっと強い人間だった。想がろう者になっていたという事実を知って動揺はしたものの、すぐに手話の勉強を始めたし、彼の耳が聴こえないことに対して悲嘆するようなことはなかった。
確固たる意志を持ち、想を見つめ続けていたのが紬。彼女の強さに引っ張られて、想も成長できたのだと思う。
■他の恋愛ドラマと比べると “凪” のドラマ
筆者は『silent』がここ数年の恋愛ドラマでナンバー1だと思っているが、万人にすすめられるかと聞かれれば、答えは「NO」。けっこう人を選ぶクセの強い作品だと思っている。
このドラマは話の進行がとてもスローリーで、それゆえに登場人物たちの心の機微がていねいに描かれており、視聴者の共感を得た。一方、劇中でたいした出来事は起こっていない。
最終話までのあらすじをざっと説明すると、紬と想が8年ぶりに再会し、湊斗が2人のためを想って身を引き、奈々が想への恋心に決着をつけ身を引き、紬と想が絆を深める――たったこれだけなのだ。
他の恋愛ドラマと比べると、本当にたいしたことが起こらない “凪” のドラマなのである。
普通の人たちが、普通の日々の営みのなかで、普通に恋をする。それだけ。逆に考えると、従来の恋愛ドラマは愛憎入り乱れて、さまざまな事件やトラブルが起こりすぎているとも言えるが、『silent』の世界ではそんなオオゴトは起きない。
それこそが最大の魅力であり、同時に人を選んでしまう最大のクセなので、波乱万丈なドラマが好きな人が『silent』を観たら、退屈でつまらないと感じるのではないか。
筆者は純然たる『silent』ファンだが、「おもしろいから絶対に観たほうがいいよ」なんて口が裂けても言えない。「つまらない」と思う人は少なくないだろうし、その感性を否定するつもりはないからだ。
「おもしろい」と思える人はセンスがあって、「つまらない」と思う人はセンスがないなんてことも思わない。シンプルに好みや価値観の違いというだけで、「つまらない」という意見も尊重したい。
ただ、個人的には、そのクセの強さこそが心の芯にグリグリと刺さった。普通だけど、特別で、普通じゃないこのドラマがとても好きだった。
フジテレビが鼻息荒く続編だ映画化だと言い出すかもしれないが、不安要素を残したまま終わったリアリティにこそ「美学」があると思うので、個人的には絶対やめてほしいと思っている。
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中
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