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「日本人初の全米1位監督」が語る海外映画賞での日本人監督の活躍「作品が権威をまとうのにはリスクもある」

エンタメ・アイドル 投稿日:2023.08.08 06:00FLASH編集部

「日本人初の全米1位監督」が語る海外映画賞での日本人監督の活躍「作品が権威をまとうのにはリスクもある」

清水崇監督

 

 メジャーリーグにおける大谷翔平選手を筆頭に、海外で活躍する日本人スポーツ選手は枚挙に暇がない。近年、映画の世界でもそれは同様で、海外の権威ある映画賞で評価される日本人映画監督や邦画が増えてきている。

 

 濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(2021年)は、アカデミー賞作品賞に日本映画として初めてノミネートされ、話題になった。また、同作は第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞、国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞、AFCAE賞を受賞。第87回ニューヨーク映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞のそれぞれで、作品賞を受賞し、第79回ゴールデングローブ賞では非英語映画賞を受賞。世界中の映画賞を席巻した。

 

 

 また『万引き家族』(2018年)で第71回カンヌ映画祭の最高賞・パルムドールを受賞した是枝裕和監督は、2023年の同映画祭でも『怪物』(2023)で、脚本賞とクィア・パルム賞を受賞。すでにカンヌ映画祭の常連監督といえる存在となっている。

 

 このように、権威ある映画賞で日本人監督が評価される15年以上も前に、世界にその名を刻んだ日本人がいる。日本人映画監督として初めて『全米映画興行収入1位』を獲得した、清水崇氏だ。

 

 清水監督は2004年全米公開の『THE JUON/呪怨』と、2006年全米公開『呪怨 パンデミック』(2006年)で、2回にわたり全米興行成績1位を記録した。この偉業は、現在までどの日本人監督も成しとげていない。最近の日本人監督の海外での高評価を、清水監督はどのように見ているのだろうか。

 

「是枝監督や濱口監督の海外映画祭での高評価は、素直に『いいな、すごいな』と思います」

 

 ただ、権威ある映画祭の常連となることは「ひとりの監督として、リスクもある」という。

 

「冠を持ってしまうと、たとえば一般の人が、『おもしろくない』と思っても、そういわせない空気ができるというか、作品が権威をまとってしまうんです。『この映画のよさがわからないのか』みたいな雰囲気です。作り手として、それはそれで、けむたいと思います。本当は映画って、誰が作ったのかもわからない状態で見られるのがベストなんです。自分の場合も、いつまでたっても『呪怨の清水』といわれています。本音をいえば、毎回、監督名も変え、いろいろなジャンルの映画を撮ってみたいくらいです」

 

 海外の映画祭では、作品の質だけではなく「主催者との関係性」も重視されるという。

 

「たとえばベネチア国際映画祭に、僕の作品は4年連続で呼ばれていたのですが、僕の作品を気に入っていた映画祭のチーフプロデューサーがクビになったとたん、いっさい呼ばれなくなりました(笑)。このように作品のクオリティだけでなく、人の縁やきっかけのほうが、映画祭では大きかったりもするんですよ」

 

 清水監督自身は「全米1位」という冠があっても、「これまで、何も変わらなかった」という。

 

「当時、製作総指揮のサム・ライミたちとアメリカにいたときは、状況がわかっていなかったんです。日本に帰国したら『日本人監督初の全米1位』と謳われていて、急に取材の嵐。僕自身は、そんな大きな実感はまったくなかったですね。当時は監督デビューして数年で、それ以降もホラー映画ばかり撮る監督になるなんて思っていなかったですし……」

 

 周囲の勝手な期待に、迷惑さえ感じたという。

 

「『清水監督は、これからハリウッド映画の監督になる』と勝手に期待されるのが大迷惑でした。僕は日本で細々と、年に1~2本、映画を撮れれば幸せと思っていたし、世界へ…なんて野心はなかったんです。ただ、急に親戚が増えたり、親しげに接近してくる業界人が増えたりして、かなり用心深くなりました」

 

 当然のごとく、世界中から清水監督へのオファーは殺到した。プロデュースなどでも何作か海外作品にかかわったが、軸足はあくまで日本だったという。

 

「一度ヒットを放つと、プロデューサー陣や配給会社は何度もこちらを起用したがってくれる。2004年当時はもちろんですが、いまも海外からの監督オファーはたまにあります。ただ、僕は企画内容に自分が納得いかないと興味が持てないんです。それに、海外案件で何度も企画が頓挫してきていますし」

 

 そう語るように、清水監督は、自身が生み出したハリウッド版『呪怨』シリーズには、『2』以降、現在までかかわっていない。

 

「日本人初の全米1位監督」という評価にもおごらず、マイペースで映画を撮り続ける清水監督。最新作『ミンナのウタ』が8月11日に公開される。同作は、GENERATIONSのメンバーが本人役で出演するというホラー映画だ。

 

「僕はGENERATIONSさんの所属するLDHも、ジャニーズも詳しくないんです。GENERATIONSさんのファン向けだけの映画だったら、引き受けていません。『GENERATIONSさんに出ていただいても、中身は自分の世界観』という条件で作らせていただきました」

 

「霊の声が録音されたカセットテープ」という、有名な都市伝説をモチーフにした今作では、何気ない音が恐怖の一要素になっている。

 

「みんなが普段から発している音や仕草から、恐怖をつむいでいくというトライをしました。何気ないしゃっくりや、貧乏ゆすりの音が、怖いメロディに絡んでくるのを、味わっていただけたら……」

 

 各人の記憶の食い違いから生じる恐怖も見所だ。

 

「同じ場所にいて、同じ状況を体験したはずなのに、各人の記憶が食い違っている。幽霊ひとつ取っても、見える人、なんとなく感じる人、まったく見えない人がいる。その違いを恐怖演出に利用しました」

 

 これまでにないほど邪悪なキャラクターも登場する。

 

「社会的には悪と見られるゆがんだ存在にも、その人なりの純粋さがあり、それを追求している。だからこそ我々からしたら怖い。それを表現したかったんです」

 

 監督デビュー以来、恐怖映画に関わり続けて、20年以上が経過した。

 

「本当はもっと早く、僕らより下の世代の真新しいホラーセンスに長けた監督が出てくると思っていたんです。かつては『海外よりも進んでいる』といわれていた『Jホラー表現』が、最近は進化していない印象もあります。恐怖の更新って、難しいんです。いくらCGがすごくても『これ、CGね』となり、逆に恐怖を感じない。肌感覚、匂いがしてくるような質感がないと、怖さがなくなるんです。そのサジ加減は、いまだに難しいですね」

 

 Jホラーにおいて、清水監督を超え世界に通用するような才能は生まれるのだろうか。

 

「日本にも、若い才能はたくさんいると思います。でも、メジャー配給側やプロデューサーは、思い切ってそこに投資しない。僕の場合は、そこに賭けていただけたので、ビデオ版『呪怨』を皮切りに、映画監督となり、全米1位も獲れた。それもあって、いま『日本ホラー映画大賞』の選考委員長をしています。ライバルを生みながらも、新しい才能を観たいし、世に出すお手伝いもしたいんです」

( SmartFLASH )

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