
杉野遥亮
「終わりよければすべてよし」の真逆で、「終わり悪ければすべて悪し」みたいなドラマだった……これがエンディング後の率直な感想だ。
9月11日(木)に最終話(第9話)が放送された『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)のことである。
テレビでコメンテーターもする売れっ子弁護士・原田幸太郎(阿部)は、50年間「独身主義」を貫いてきたが、入院中の病院でネルラ(松)と偶然出会い、電撃結婚。
こうして、しあわせな結婚生活がスタートする――と思いきや、新婚早々に現れた刑事・黒川(杉野遥亮)から、ネルラが15年前に婚約者を殺害した疑惑があると告げられる。
軽妙な会話劇で見せるコメディ要素もありつつ、ベースは15年前の事件の真犯人は誰なのかというシリアスなストーリーが展開。
そして、最終話前の第8話で、当時まだ小学生だったネルラの歳の離れた弟・レオ(板垣李光人)が、ネルラを守るため婚約者を殺してしまったという真相が判明していた。
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■【ネタバレあり】最終話の “消化不良” 感
「終わり悪ければすべて悪し」と感じた理由は、ズバリ “消化不良” 感だ。
まず、意味深長に描かれていたシーンがたくさん散りばめられていたので、終盤で回収される伏線だろうと思っていた。
一例だが、幸太郎とネルラが病院で初めて出会ったとき、ネルラの言動がかなり不自然だった。そのため、いきなり2人が惹かれあったように見えたのも、なにか秘密が隠されているに違いないと予想していた。だが、本当にただの偶然の出会いで、彼女がただ単に “不思議ちゃん” というだけだった。
また、バイプレイヤーとして個性豊かな俳優たちが出演していたので、終盤のキーパーソンになるのだろうと思っていた。
これも一例だが、黒川の上司で15年前の事件の捜査をストップさせた警察のお偉いさん役に、売れっ子の野間口徹がキャスティングされていたため、実は悪事を働いているような裏の顔があるのかと考えていた。けれど、野間口はキーパーソンでもなんでもなく、最終話は登場すらしなかった。
このように、意味ありげなシーンやキャラに特段の意味はなく、スルーされたまま終幕してしまったのだ。
■杉野のキャラにも秘密があると思ったが
なかでも筆者が「このキャラ、けっきょくなんだったの?」と強烈に疑問を抱いているのが、杉野遥亮演じる刑事・黒川だ。
杉野と言えば、GP帯の連ドラで何本も主演している旬な俳優なので、彼の演じる黒川は幸太郎、ネルラに次ぐ重要キャラだと思っていた。実際、15年前の事件の再捜査を進めていたし、ネルラをめぐって恋愛的な三角関係のようにもなっていた。
黒川についてもう少し掘り下げて説明していこう。
黒川は、15年前の事件で最初に現場に到着した新人警官だったのだが、現場にいたネルラを見かけたときから直感的に彼女を疑い、強い執着心を抱いていた。前述したように、犯人は弟のレオだったので、その直感は外れていたことになるが、それは置いておこう。
中盤回で、黒川がネルラに異様に執着した理由は、一目惚れのような感じで恋愛感情が芽生えていたからだということになっていた。また、ネルラ側も黒川を妙に気にかけており、心を許しているような描写もあった。
しかし、あまりにも唐突な恋愛展開に違和感がありあり。筆者だけでなく、黒川というキャラになにか大きな秘密が隠されていると思っていた視聴者は多かったのではないか。
実はネルラとレオの間には五守(ごしゅ)というもう1人の弟がいたのだが、6歳のときに海難事故で亡くなったという設定だった。
そのため、筆者は、黒川は記憶喪失のまま成長した五守なのではないかと考察。“五守=黒川” なら、黒川が15年前にネルラを一目見ただけで執着するようになった理由も、2人が惹かれあっていた理由も説明がつく。
けれど、“五守=黒川” なんてことはいっさいなく、終盤で五守についてのエピソードが掘り下げられることもなかった。考察が外れた負け惜しみのように聞こえるだろうが、“五守=黒川” でないのなら、黒川がネルラを好きだという謎すぎる恋愛展開はなんだったのか。
序盤から中盤にかけて物語の中心にいた黒川は、終盤にかけて存在感が希薄になっていく。特に最終話は登場シーンが少なく、たいした見せ場もナシ。ネルラへの恋愛感情もうやむやに放置されたまま物語は幕を下ろした。
主演をばんばんこなす杉野遥亮をわざわざキャスティングしていたことから、最終話で彼にスポットが当たるシーンや、彼にまつわるどんでん返しがあるかと期待していたが、な~~~にもなかったのである。
■最終話まで毎回毎回楽しみにしていたのに
物語の結末が消化不良すぎて酷評することになってしまったが、シリアスとコメディがいったりきたりする絶妙なバランスは秀逸だったし、どんな真実が隠されているのかという考察ドラマとしても “引き” が強かったため、最終話まで毎回毎回楽しみにしていた。
しかし、それは意味深に描かれたシーンや意味ありげな言動をするキャラの謎が、最終話までにきちんと解き明かされることを信じていたから。
期待させるだけ期待させて、放り出してしまったような最終話。今クールのなかでもかなり楽しんで視聴していただけに、「終わり悪ければすべて悪し」という印象に着地したことは、とても残念だった。