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エンタメ小説家「ライトノベルに参入しなかった理由」を明かす…萌えキャラを年間3作も書けるのか

ライフ・マネー 投稿日:2023.01.23 16:00FLASH編集部

エンタメ小説家「ライトノベルに参入しなかった理由」を明かす…萌えキャラを年間3作も書けるのか

 

 2004年、『ラス・マンチャス通信』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューしたエンタメ作家・平山瑞穂氏。「売れない作家」と自称する平山氏が、ライトノベルの執筆依頼を断った理由とは?

 

 

 僕はある編集者から執筆の打診を受けていた。その人のことは、仮にY氏と呼んでおこう。実はY氏は、もともと僕の個人ブログにおける常連コメント投稿者の一人でもあり、リアルでの面識はないまま、コメント欄を通じての交流があった。

 

 

 その後、某出版大手のライトノベル編集部に職を得たY氏が、今度は一編集者として声をかけてきてくれて、そこで初めて顔を合わせる次第となったのだった。そう、彼が提示してきたのは、ライトノベルを書いてみないかという申し出だった。

 

 その時点で、ライトノベルと呼ばれるものについて、僕にはなんの定見もなかった。せいぜい、「学園を舞台としていて、アナクロニスティックで不自然な喋り方をするツインテールの女の子などがたくさん出てくる、イラストの多い文庫判の軽い小説」という程度の認識しかなかった。意識して読んだこともなかったし、まして自分で書きたいなどとは思ってみたこともなかった。

 

 打ち合わせ当日手渡された、彼が勧めるライトノベル作品や、その後彼が担当して形になるたびに送ってきた新刊などを、僕はひとまず虚心坦懐に読んでみた。すると、この分野の作品に、僕が漠然と思い浮かべていたイメージとは大きく異なる側面がいくつも備わっていることがすぐにわかった。

 

 ライトノベルというのは、ジャンル名称ではない。イラストが多用されるという仕様などと並んで、いわゆる「萌えキャラ」が登場していることなど、いくつかの絶対外せない不動のルールはあるものの、それ以外はまったくの自由で、作風は著者によっててんでに異なり、内容もミステリーからSFから恋愛ものからなんでもアリの様相を呈している。

 

 中には、純文学かと見紛うものまである。それこそ手練の純文学作家顔負けの、詩的で華麗な文体を惜しげもなく披露している書き手もいる。

 

 ライトノベルとは、ある意味で文学的才能の宝庫でもあるのだ。最初からそれを志向していた書き手ももちろんいるが、一般文芸における作家デビューを目指して果たせず、結果としてはライトノベルの領域で日の目を見たという書き手も少なくないようだ。僕はそれまでの自分の不明を恥じ、いつしかこの分野に対してそれまでとは違った目を向けるようになっていた。

 

 この領域で書いていくことに、いっときかなり心惹かれていたことは否定できない。このまま一般文芸、それもエンタメの分野で、さまざまなルールに縛られる不自由さに翻弄されながら、いつになったら売れるのかという焦りを抱えたままやっていくよりも、いっそライトノベルに宗旨替えしてしまったほうが、書きたいように自由に書かせてもらえるのではないか。そのほうが、小説の書き手としての僕にとっては幸せなことなのではないか――。

 

 Y氏も、「なんらかの萌えキャラさえ登場させていただければ、あとはどうぞなんでも自由に書いてくださってかまいません」と請け合ってくれていた。そして、「まずはこういうのはどうでしょう」と、具体的なヒントを提示してくれてもいた。いつしか話は、僕がその申し出を受けるという方向で進んでいた。

 

■エンタメ文芸とは異なるラノベの「ルール」

 

 しかし当然、迷いもあった。ライトノベルを書くということは、ほぼ、それに専念することを意味している。この領域で作品が売れれば、当然、「次も」という話になる。固定読者のつくシリーズものを生み出せることこそが、この分野における成功なのだ。そしてシリーズものを出すとなれば、年間に3作は書かなければならない。

 

「年間に3作」というのは、「1学期ごとに1作」という計算に基づいている。主要な読者層である中高生などの購買力ではそれが限界だし、かといって半年以上間を空けてしまったら、読者の興味を釘づけにして引っぱりつづけることがむずかしくなるからだ。

 

 そして「年間に3作」というのは、ほぼ、全労力をそれに振り向けなければならないペースである。当時、サラリーマンと兼業だった僕には、その3作を仕上げること以外になにかをする余力など、とうてい捻出できそうにはなかった。

 

 それに、エンタメ文芸よりはるかに「自由」だとはいっても、この領域に内在する別のルールは厳然としてある。ルールとしてのその拘束力は、むしろエンタメ文芸におけるそれよりも強いほどだ。

 

「萌えキャラ」なんて描いたことは一度もなかったし、描ける自信もなかった。「萌え」という概念自体が、僕の理解を超えていたからだ。それがどういうものなのか言葉で説明することはもちろんできても、自分でそれを感じることができなかった。そしてそういうものを、好きになれるとも思えなかった。

 

 年間3冊出すことができ、ある程度売れることにも成功すれば、実入りがずっとよくなる可能性もあった。なんなら、それだけで生計が十分に成り立つかもしれない。

 

 ただ、ライトノベルというのは、(中高生とはかぎらないにしても)特定の嗜好を持つ読者の間だけで読まれる、きわめて閉じられた世界だ。この領域でどれだけ売れたとしても、(それこそ『涼宮ハルヒ』シリーズの谷川流級でもないかぎり)一般での知名度には結びつかないだろう。

 

 それでいいのか。それが僕の目指していた小説家としての姿なのか――。

 

 たとえば桜庭一樹など、ライトノベル出身で、のちに一般文芸で大成した書き手もいることは知っていた。しかし僕の場合、逆コースを辿るわけだ。その点にも、拭いがたい違和感があった。そういう形でライトノベル作家になってしまえば、変に色がついてしまい、いずれ再び一般文芸の世界に戻ろうとしても、戻りにくくなってしまっているかもしれない。

 

 自由に書きつづけられ、なおかつ常時仕事が舞い込んでくれさえすれば、それでいいというわけではない。かなり悩んだが、やはり、この話は断るべきだと最終的には心が決まった。

 

 Y氏には、その思いを率直に打ち明け、いろいろと手引きしてくれたのに申し訳ないと心から謝った。Y氏はとても残念がってはいたが、僕の心情は理解してくれた。

 

 このときオファーを断ったことが「失敗を回避した」ことになったのかどうかという点については、微妙なところがある。もしかしたら、Y氏のもとでライトノベル作家になってしまっていたほうが、小説家としては成功していたということになるかもしれないのだ。

 

 進むべき道を選択することの裏には、常にそうした紙一重の不確定性がつきまとっている。

 

 

 以上、平山瑞穂氏の新刊『エンタメ小説家の失敗学~「売れなければ終わり」の修羅の道』(光文社新書)をもとに再構成しました。「食っていける」のはごく一握り、エンタメ文芸の道の険しさが、赤裸々に明かされます。

 

●『エンタメ小説家の失敗学』詳細はこちら

( SmartFLASH )

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