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デフレ化する医大に「特命教授」「招聘教授」が増殖中

連載 投稿日:2016.10.07 20:00FLASH編集部

デフレ化する医大に「特命教授」「招聘教授」が増殖中

写真:AFLO

 

「私、失敗しないので」でお馴染みの大門未知子が帰ってくる。

 10月から新シリーズが始まるドラマ『ドクターX』。その制作に協力したフリーランス医師が、医療現場の実態を明かす。
これを読めば「病院の真の姿」が見えてくる――。

  ※

 

「教授になりませんか? ぜひとも先生の麻酔の腕が欲しいという大学病院があるんですよ」

 

 久々に会ったとたん、こう切り出したA先生。私と同じフリーランスの医師だが、病院を渡り歩くうちに人脈を築き、医療業界内では医師転職エージェントとしても知られている人物だ。

 

 医大の教授といえばドラマ『白い巨塔』の財前教授が印象深い。腕は抜群で国際学会でも成功し、忠実な若手医師たちに囲まれて大学医局に君臨していた。私生活でも美人妻と豪邸に住みながら、愛人もいて……のイメージを持つ人は今も多いだろう。

 

 しかし時代は確実に変わった。高齢化により患者は増える一方だが、若手医師は封建的な医局(※)制度を嫌い、母校の大学病院よりも都会のブランド病院を目指すようになった。医大に残った医師たちは過重労働に苦しみ、大学病院の医局は弱体化した――。

 

 2012年放送開始のドラマ『ドクターX』シリーズは、そんな事情を背景にしている。出てくるのも、院内政治にばかり注力する教授、中間管理職で「御意」が口癖の教授、イケメンだが手術ではミスばかりの教授……と、『白い巨塔』の財前教授のような輝きはない。

 

 このような教授たちは、現実の大学病院でもよく見られる。近年、「病院教授」「特任教授」「招聘教授」といった肩書を目にすることが多くなった。医局トップの主任教授のほかに各病院がポストを設け、中高年医師を集めるエサにしているのだ。

 

 若手医師が抜けた穴埋めのためなのだが、リアル『白い巨塔』を経験した昭和世代の医師はいまだに「教授」と呼ばれることに魅力を感じるらしい。

 

 なかには年俸1500万円の転職話を蹴って「年俸1000万円+教授の肩書」で承諾するケースもあるそうだ。いまや、研修医より教授の数が多い大学病院は珍しくない。

 

「B医大がC病院を買収したのはご存じですよね。外科医を増やして収益率のいい手術をガンガンやって黒字化させる計画なんですよ。手術数を稼ぐには麻酔科医も増やさなければ」とA先生は熱心に説く。

 

「年俸は?」と訊くと「ウン百万円」との答え。「40過ぎた専門医が、1000万円もないんですか!」と私が驚くと「でも、週3日勤務ですからね。もちろんそれ以外のバイトは自由です。教授の肩書で稼いでください」と言う。

 

「でも、常勤医(=正社員)は最低でも週32時間は働かないとダメなんじゃ」と私が突っ込むと「そうなんです、だから当直を週一回やって、それを含めれば週32時間に……」という話だった。

 

 これでは、実質的な時給は研修医レベルになりそうだ。やれやれ。

 

 私が丁重にお断わりすると「じゃあ、誰かほかの麻酔科医を紹介してくれませんかね」と。おいおい、「私の腕が欲しい」って話じゃなかったの!

 


※医局=同一診療科の医師グループ。政界の派閥に近い。出身大学の医局に所属し、教授を頂点としたピラミッド構造を形成する。『白い巨塔』では絶対的な権限を持つ教授の存在が描かれた

 

<筒井冨美>
 1966年生まれ フリーランス麻酔科医 国立医大卒業後、米国留学、医大講師を経て2007年からフリーに。医療ドラマの制作にも関わり、『ドクターX』(テレビ朝日系)取材協力、『医師たちの恋愛事情』(フジテレビ系)医療アドバイザーを務める

(週刊FLASH2016年10月18日号)

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