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安倍晋三元首相 9.27国葬に専門家が警鐘「黙祷強制でトラブルが起きる可能性がある」

社会・政治 投稿日:2022.07.28 06:00FLASH編集部

安倍晋三元首相 9.27国葬に専門家が警鐘「黙祷強制でトラブルが起きる可能性がある」

吉田茂元首相の戦後初となる国葬も東京・千代田区の日本武道館でおこなわれた(写真・共同通信)

 

 岸田文雄首相が9月27日に決めた安倍晋三元首相の国葬。吉田茂元首相以来、戦後2度めとなる国葬だが、一体どのようなものになるのだろうか。

 

『国葬の成立 明治国家と「功臣」の死』(勉誠出版)の著者で、国葬研究の第一人者である中央大学文学部の宮間純一教授が、過去に国葬で起きた“9大史実”をもとに語ってくれた。

 

1.国葬の定義や目的は明確ではない

 

 

「国葬は世界各国で実施されていますが、その意味は国によって異なります。日本では、1945年までに実施された『国家ニ偉功アル者』(国葬令)の国葬は、天皇の名のもとに、国家統合を強固にする役割を果たしてきたと考えられます。1947年に国葬令の失効後、日本国憲法下における国葬のあり方を検討し、ルール化すべきだという意見が出たことはあります。しかし、現在まで国葬の定義や目的は明確にされていません」(宮間教授・以下同)

 

2.歌舞音曲は差し控えるよう「お願い」が出た

 

「1967年の吉田茂元首相の国葬の際には、弔旗を掲げること、黙祷を実施することが要請され、官公庁・公立学校はできるだけ半休することとなりました。また、官公庁は公の行事や儀式、その他歌舞音曲をともなう行事は差し控え、民間企業や一般国民にも自粛するように『お願い』が出されています。弔意の表明を『強制』することはできませんから、今回もなんらかの要請があっても『お願い』になると思います」

 

3.黙祷の合図が流れても足を止めない人が多かった

 

「吉田元首相の国葬当日、官公庁や地方公共団体は大半が半休になりました。民間企業では、東京・丸の内の銀行や大企業で社内放送を流し、黙祷を実施するところが多かったようです。一方で、地方の民間企業や金融機関などでは平常営業をおこなっていたところも多くありました。また、無関心層も少なくなく、14時10分に黙祷の合図のサイレンやアナウンスが流れても足を止めず、黙祷もしない人が多数いました」

 

4.沿道では7万2000人が見送った

 

「吉田元首相の国葬の場合、大磯の吉田邸を出て、交通が規制された道を車列が進んでいきました。東京に入ると沿道には、約7万2000人の一般人が見送り・見物に集まりました。田安門から日本武道館のある北の丸公園に入った葬列は、自衛隊と防衛大学校の学生1000名ほどに迎えられて式場に入っていきました」

 

5.参列者は約5700人、一般会葬者は約3万5000人だった

 

「吉田元首相の国葬では開式後、式場と全国で1分間の黙祷。佐藤栄作首相が追悼の辞を述べ、ついで、衆参両院議長、最高裁長官、友人代表による追悼の辞があり、天皇、皇后の使いが拝礼。皇太子夫妻以下、皇族による供花の後、遺族、首相、衆参両院議長、最高裁長官、友人代表、約70カ国の外国使節の献花がおこなわれました。それ以外の一般人は、参列者の献花が終わった後、午後3時半から7時までの間献花をおこなうことができました。当時の新聞報道によれば、参列者は約5700人、一般会葬者は約3万5000人。安倍元首相の国葬でも、吉田元首相の例が参照されるのではないでしょうか」

 

6.費用は中曽根康弘合同葬が目安に

 

「直近でおこなわれた中曽根康弘元首相の合同葬は、全体の費用約1億9000万円を自民党と内閣が折半する形で実施されています。今回の費用は全額国費となりますが、総費用は、このケースがひとつの目安になるのではないでしょうか」

 

7.「するな黙とう、許すな国葬」という立て看板が東京大学に立てられた

 

「大日本帝国憲法下でも、故人が国葬の対象にふさわしいか否かをめぐって、帝国議会で反対意見が出ることはありました。しかし、当時の国葬は天皇の名のもとに実施されます。一度決まってしまえば、表立った反対・抗議活動は民間では確認できません。しかし戦後の吉田元首相の国葬の際には、渋谷駅前のハチ公前広場で共産党や民主団体が街宣カーで、国葬は「軍国主義と帝国主義の復活につながる」と反対演説をしたり、東京大学で「するな黙とう、許すな国葬」という立て看板が立てられていたりしました」

 

8.特集番組のCMを中止した局があった

 

「吉田元首相の国葬当日は、各放送局で特集番組が組まれました。局によっては、番組中のCMを中止したり、哀悼のためのテロップを流したりしています。ラジオも同様に国葬関係の特集を組んでいます。NHKの国葬中継の視聴率は、関東で約29%、関西で約27%でした」

 

9.「国民葬」でも「黙祷」の要請があった

 

「佐藤栄作元首相の『国民葬』のときに、佐藤氏の郷里・山口県の教育委員会が、(1)各学校は弔旗を掲げること、(2)教職員、生徒は黙祷すること、という通達を出しました。これを受けて、ある小学校では校長が全校朝会で、佐藤氏の業績と国民葬の意義を説明し、通達に従うことを決めたところ『個人の思想的自由を侵害する』と山口県教組から抗議を受けています。今回も政府は『弔意を示すことは任意だ』と言うでしょうが、受け止める側がそうだとは限りません。黙祷を強制した・しないで、身近な人間関係のなかでトラブルが起きる可能性があります」

 

 安倍元首相の国葬まであと2カ月。無用なトラブルは起きてほしくないが……。

 

( 週刊FLASH 2022年8月9日号 )

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