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「1億6000万円横領」部下の上司に「3000万円払え!」三重県南伊勢町が命令 被告の祖父は「ほったらかしの役場も悪い」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.02.22 06:00 最終更新日:2023.02.22 13:30

「1億6000万円横領」部下の上司に「3000万円払え!」三重県南伊勢町が命令 被告の祖父は「ほったらかしの役場も悪い」

広出被告が会計担当を務めていた南伊勢病院

 

 三重県南伊勢町で2022年6月に発覚した、1億6000万円超の公金横領事件。町は、業務上横領罪に問われている広出翔被告(39)に1億1795万円、被告の元上司ら4人に2926万円~376万円の賠償を命じた、と2月16日付の「朝日新聞」が報じた。

 

 広出被告は、在職した町上下水道課と、町立南伊勢病院で5年にわたり横領を続けた。総額は1億6790万円に上る。

 

 

 町は、当時の水道課長と町立病院事務長3人についても、管理職として過失責任があったと判断。過去の横領事件の裁判で、損害額の3割を責任者が負担するとした判例を踏まえ、元上司らの賠償額、計5050万円を算出した。

 

 町は支払期限を2月末までとしているが、賠償額のもっとも多い2926万円と、次に多い1337万円をそれぞれ請求された元病院事務長2人は、不服申し立てを検討しているという。

 

 現在、広出被告は同病院で会計担当時に計9826万円を横領した罪に問われ、公判中。着服した金はアイドルとのビデオ通話や、性風俗店などに使ったという。

 

 広出被告とはどんな人物なのか。2月某日、本誌は実家を訪ねた。

 

 山間部の小さな集落に立ち、瓦屋根の周囲とは異なるスレート葺の洋風の建物が、広出被告が学生時代を過ごした家だ。

 

 インターフォンを押すも応答はない。そこへ偶然にも、隣の古い木造の家に住む祖父母が帰宅。2人に尋ねた。

 

――まず、損害金額約1億7000万のうち約5000万円が、翔被告の上司らに請求されたことについてどう思われますか?

 

祖父、祖母「それはわかりませんので」

 

――翔被告はこちらの家にいらっしゃる?

 

祖母「おりません。あれもねえ、やった本人が悪いかもしれんけど、役場ももっと早くわかってくれてたらなあ、と。みんなが言うてくれるのは、(上司が)確認もせず判を押すようなことじゃあ、ちょっと腑に落ちんなと……。でも、私は何もわかりません」

 

――どんなお孫さんでした?

 

祖母「私にとっては最高の孫でね、あんないい子はないです」

 

――でも、1億6000万円を横領しました。

 

祖母「あれみんな、アイドルの応援につこうてしまったらしいです。家を建てたとか、してませんしな。ただアイドルにあれしてしまっただけで……」

 

――それでも、最高のお孫さんですか?

 

祖母 「最高の孫です。そんなことしでかすような子じゃないしね。役場がね、何年も何年も……」

 

祖父「そりゃあ、お金をつこうてもうた、孫がいちばん悪い! けどな、あんな大きな組織だと毎月、決算せんとあかんのに、5年もなんにも気づかずに見逃してきたから、こんな大事になってしもた。ほったらかしにしたんやから、それも悪い」

 

――報道ではアイドルだけではなく、風俗にも使ったとされています。

 

祖母「うーん……」(しばし無言)

 

――翔さんの元病院事務長のひとりは、およそ3000万円も請求されています。このことについてはどう思われますか?

 

祖母「あっ……」(ひと言発しただけで黙り込む)

 

祖父「そら、つこうた者が悪いわな。でも、大きな会社とかはどこも月の終わりに会計出すから、普通はそのときにわかるわいな。それを6年間もの長いあいだ見つけられんかったというのは、まわりの人たちも悪い。町役場自体がおかしいんと違うか、となって当然」

 

 孫だけが悪いのではないと考える祖父母だった。

 

 横領がおこなわれていた期間、もっとも長く病院事務長を務めたために、最高額2926万円を請求されているA氏はいま、どんな心境なのか。

 

 本人に代わり、A氏の兄に話を聞くことができた。

 

「弟は『もうすぐ裁判があるから、取材には何も言えない』とのことでした。私も報道を見て、弟に『お前、こんなん出とるけど、大丈夫か』とは言ったんです。そしたら、『いま裁判入れてるから』というだけ。それだけではわからんですし、心配なんで『いまどんな状態なんや?』と尋ねても、『いまはなんとも言えやんのや』の一点張り。そんなふうに、身内にも言えんみたいなんで……」

 

 終始、「さっぱりわからん」と繰り返す兄だった。

 

「町の公表している監査報告どおりで……」と決まり文句しか言わない町会議員が多いなか、町の決定に疑問を投げかける議員もいた。ある町議はこう語る。

 

「今回、対象になった事務長3人はみな、前町長が自分の県職員時代のつながりから連れてきた人ばかりなんです。ただ、3人とも、ほかの病院で事務長を務めた経験はなかったようです。一度でも経験していれば、部下にしっかり金銭の管理をさせていたはずです。

 

 これまで問題が起こらなかったのは、広出被告のような人間がいなかっただけのことで、同じような人間がいたらいつでも起こっていたでしょう。

 

 それを病院事務長と、その前の水道課長の4人だけに全体被害額の3割を負わせるというのは、ちょっとやりすぎじゃないかと思います。とくに最後の病院事務長は、退職金が全部吹っ飛んでも追いつかないぐらいの金額。ひとりの犯罪のために人生がおかしくなってしまいますから」

 

 さらに、町長の責任にも言及した。

 

「地方自治法では、職員が罪を犯した場合、職員に対する賠償は書いてあるんですが、町長に対する賠償の記述はないんです。でも、普通に考えたら、役場の長にも責任があるはずです」

 

 3人の事務長を任用した前町長は、自身の責任についてどう考えるのか。本誌の質問に、次のひと言が返ってきた。

 

「そのことについては、私がどうこう話すことはありません」

 

――今回の件で、個人へ町から3000万円も請求されていることについてはどう思われますか?

 

「役場が専門家による外部監査を入れて、その結果を踏まえて決定したことなので、それについて申し上げることはないのですが、私個人としては、課長さんや事務長さんらには、つらいことになってしまったなあと思います。横領したのはひとりの職員なんでね。それを肩代わりするというのは……。そのあたり、法律の専門家ではないのでよくわからないのですが、今回の請求や請求額については、理解しがたいなとは思います」

 

 不服を申し立てた2人の負担額は、今後どうなるのか。

( SmartFLASH )

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