3月15日から、一発勝負の2次ラウンド(準々決勝)に突入するWBC。2009年以来、3度めの世界一を目指す、栗山英樹監督率いる侍ジャパンは、二刀流・大谷翔平(エンゼルス)を筆頭に、ダルビッシュ有(パドレス)らのメジャーリーガーが参戦し、史上最強との呼び声が高い。
だが、ライバル国もメジャーリーグで活躍するスター選手を揃えている。はたして、激戦を制する国はどこか。メジャーを取材する2人の敏腕記者にたっぷり語り合ってもらった。
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史上最強なのは、侍ジャパンだけじゃない。とくに、大会連覇を狙うアメリカの野手陣はほぼオールスター級。
外野には「メジャー最高の選手」と称される、シーズンMVP3度の主将マイク・トラウト(エンゼルス)や、2018年にレッドソックス、2020年にはドジャースでワールドシリーズを制覇した“優勝請負人”ムーキー・ベッツ(ドジャース)、2022年のナ・リーグ本塁打王カイル・シュワーバー(フィリーズ)らが並ぶ。
内野にも、ナ・リーグMVPのポール・ゴールドシュミット(カージナルス)や、初優勝した前回大会では4番を務め、3塁手として10年連続でゴールドグラブ賞に選ばれたノーラン・アレナド(カージナルス)ら、スーパースターが揃った。
――過去に、アメリカがこれほどスター選手を揃えたことはなかったのでは?
ボブ・ナイチンゲール(以下N):トラウトの出場は、2018年までエンゼルスを指揮していたマイク・ソーシア監督が退任したことが大きい。ソーシア監督は、選手がWBCに出場することを望まなかったから。前回大会は、ジム・リーランドが代表監督を務めたが、各球団から「うちの投手は何イニングまで」などと、あれこれ連絡が来てうんざりだという感じだった(笑)。
――トラウトは、前回大会でアメリカが初優勝したことに刺激を受け「出たくなった」と話していたようですね。
スコット・ミラー(以下M):今回出場する選手からは、そんな話をよく聞く。また「トラウトが出るなら俺も出る」という選手もいたはず。
N:オープン戦に出るより刺激的なのはたしか。毎朝6時に起きる必要もない(笑)。
一方で、当初は代表入りしていた、サイ・ヤング賞3度受賞で、メジャー通算197勝のクレイトン・カーショウ(ドジャース)の辞退が話題となったが、ジャスティン・バーランダー(メッツ)やジェイコブ・デグロム(レンジャーズ)、マックス・シャーザー(メッツ)といった好投手もメンバー入りしていない。
通算195勝のアダム・ウェインライト(カージナルス)、同123勝のランス・リン(ホワイトソックス)、元巨人のマイルズ・マイコラス(カージナルス)らは名を連ねたが……。
N:カーショウ本人は出場を希望していたようだが、過去に何度も腰を痛めているため、出場に必要な保険料が高すぎて断念せざるを得なかった。
M:保険料は20万ドル(約2700万円)らしい。投げてもせいぜい2試合。合わせて5イニングぐらいなのに(苦笑)。
――保険料はどこが払うの?
N:WBCはメジャーリーグが運営しているので、結局、財布は一緒。ただ、さすがにその額を払うことを彼らは躊躇した。カーショウは一部を自ら負担すると申し出たらしいけどね。
M:結局、その保険の問題が、アメリカのエース不在を象徴している。高額年俸の投手の保険金は莫大になるから、保険会社も引き受けたくないし、各球団も無保険ではプレーさせられない。
――ただ、ドミニカやベネズエラは、好投手が参加する。ドミニカからは、2022年に14勝(9敗)を挙げ、ナ・リーグ2位の防御率2.28を記録してサイ・ヤング賞を獲ったサンディ・アルカンタラ(マーリンズ)が出場する。
N:中南米の選手の熱意を抑えることは難しい。彼らはオリンピック同様、WBC出場に誇りを感じているし、勝つことに本気なんだ。結局、球団は選手がどうしても出るといった場合、出場を止めるのは難しい。
■点の取り合いならドミニカ、僅差の展開なら日本が有利!
――前出のソーシア監督の話に戻すと、もしもまだ彼がエンゼルスの監督だったら、大谷の出場は難しかった?
N:理解が得られたかどうか。そもそも今回、かなり保険料が高かったはず。大谷の年俸は3000万ドル(約41億1000万円)。さらに二刀流。前例がないので、今回の出場選手のなかで保険料がいちばん高かったとしても驚かない。
M:ただ、日本はもちろん、メジャーも、それを払ってでも大谷にはWBCに出てほしかったということだろう。カーショウと比較しても、経済効果はその何十倍だろうからね。一方で、ダルビッシュの参加は、パドレスとしては心配だろうね。彼らは真剣にワールドシリーズ制覇を狙っているから、長いシーズンを考えれば、慎重に調整してほしかったはず。
N:WBCの前に契約を延長したことにも驚いた。6年総額1億800万ドル(約148億円)という長期の大型契約だけに、最終的に合意するのはWBCが終わってからでもよかったはず。それだけ、彼らはダルビッシュのことを信用しているのだろう。
M:でも、大谷とダルビッシュがいれば、日本の先発は最強ともいえる。さらに、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(千葉ロッテ)もいる。これだけ先発陣の駒が揃っているチームはほかにない。ドミニカも悪くないけど、先発はやはり日本がトップ。
N:アメリカは先発が揃わなかった分、2020年に新人王と最優秀リリーフ投手賞を受賞し、チェンジアップの使い手として知られているデビン・ウィリアムズ(ブルワーズ)や、2022年に登板50試合で33セーブを挙げ、アストロズの世界一に貢献した守護神ライアン・プレスリーら、リリーフに好投手を集めた。細かい継投で繋ぐブルペンデーのような形で戦うつもりなのだろう。
M:1人1イニングなら全力で投げるから、なかなか点を取れない。でも、複数の投手が登板するとなると、1人ぐらいは調子の悪い投手がいるもの。投手を使えば使うほど、リスクは高まるからね。
N:とはいえ、先発も球数制限があって長いイニングを投げられるわけではないから、必然的にリリーフ勝負になる。そうなったら、ドミニカに分がある。先発とリリーフのバランスがいちばんいい。
M:でも、ドミニカはプールDを勝ち抜くだけで疲れてしまう可能性がある。同じ組にプエルトリコ、ベネズエラもいるからね。
N:D組は、単純に試合がおもしろくなると思う。あの3強の熱量は日本をも上回る。
M:しかも、彼らは真剣になってきた。ドミニカは2009年の第2回大会で優勝候補に挙げられながら、宿泊先で毎日のようにパーティを開き、ミスを連発。1次ラウンド敗退というさんざんな結果だった。
N:それで気持ちを入れ替え、第3回大会で優勝した(笑)。
M:3強のうち、2チームしか準々決勝へ行けない。かといって1次ラウンドから真剣に戦うのは、準備運動が不十分なままダッシュをするようなものだから、故障のリスクもある。そこがどうなるか。
N:1次リーグでいい投手を注ぎ込みすぎて、準々決勝で使えないという可能性もある。かといって温存も難しい。
M:準々決勝以降は負けたら終わりだから、投手起用が難しいことはたしか。
N:ほかのチームにもいえるが、そこは難しい。だからこそ日本は4枚の先発がいるので、アドバンテージがある。
――そんな隙を突いて、日本やアメリカが勝ち上がる?
N:アメリカの打線はすごい。トラウト、アレナド、ベッツ、2021年のナ・リーグ首位打者のトレイ・ターナー(フィリーズ)ら、スターばかりだ。
M:先発投手は駒不足だが、リリーフはいい。しかし、勝てるかな?
N:厳しいと思う(笑)。
M:同じく(笑)。
――その理由は?
N:監督は、2009年の第2回大会に選手として出場したマーク・デローサ。メジャー通算630本塁打のケン・グリフィーJr.(元マリナーズ)が打撃コーチで、メジャー通算256勝のアンディ・ペティット(元ヤンキース)が投手コーチでしょ。彼らは選手としては優秀だったけど、まったくコーチ経験がない(笑)。
M:前回大会のジム・リーランド監督は、ワールドシリーズを制覇し、3度も最優秀監督賞に選ばれた実績があった。なのに今回は、経験のある人物がコーチ陣に少ない。
N:アメリカが勝つとしたら、打線が圧倒的な力を見せつけるしかない。しかし、そんなに簡単なことかな? 戦術も何もない。個人の能力のみに頼る戦いで優勝できるほど、野球は甘くない。
M:準備に関しても、日本が事前合宿をおこなったのに対し、アメリカは練習試合は何試合かあったけど、全員が揃って練習したのは1日だけ。もちろん、戦力だけで考えれば、日本はアメリカやドミニカにかなわない。でも、野球をよく知っているし、それを補うだけのものがある。だから、個人的には日本が勝つと考えている。
N:私はドミニカを推す。打線、先発、リリーフのバランスがいい。彼らが日本をなめてかからず真剣なら、なかなか勝てる国はない。
M:もしも162試合なら、ドミニカの優勝に異論はない。しかし、短期決戦。しかも1試合のみ。だとしたら、戦力差よりも、ミスをしたほうが負け。日本にはそういうシナリオがみえない。
N:点の取り合いならドミニカ。僅差の展開なら、日本が有利かな。
(取材&文・EIS)