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橋本環奈『トクメイ!』工夫はあるが突き抜けた独創性はなく…このままでは「代表作は『紅白』」を塗り替えられない

エンタメ・アイドル 投稿日:2023.11.13 11:00FLASH編集部

橋本環奈『トクメイ!』工夫はあるが突き抜けた独創性はなく…このままでは「代表作は『紅白』」を塗り替えられない

 

 橋本環奈は、ちょっと変人ながら “かわいげ” のある主人公を、さすがのコメディセンスで好演していると思う。

 

 しかし、残念ながら、この作品も彼女の代表作と呼べるような大ヒットになる可能性は低く、このままでは「代表作は『紅白』」のまま来年の朝ドラを迎えてしまうかもしれない。

 

 先週月曜に第4話まで放送されている橋本主演の『トクメイ!警視庁特別会計係』(フジテレビ系)。

 

 

 本作は一風変わった警察ものドラマである。

 

 警察庁から “特別命令(トクメイ)” を受け、お荷物所轄と呼ばれる万町署の経費削減を任ぜられた特別会計係の女性警察官・一円(はじめまどか/橋本)。

 

 無駄な器物破損、いかがわしい情報屋との交流、使途不明な経費などがまかり通ってきた万町署のアクの強い刑事たちに、円が捜査費などの節約を迫りながら、時に協力して難事件を解決していくというストーリーだ。

 

■主人公やレギュラー陣のキャラは悪くない

 

 橋本が演じる主人公・円は、1円のズレも許さない数字に細かい几帳面な性格で、次々と起こる事件をお金(数字)という角度から推理していく。また、「疫病神」と呼ばれるほどとてつもなく運の悪いタイプで、頻繁にトラブルに見舞われるキャラクター。

 

 そんなコミカルで個性的な主人公を、橋本はコメディエンヌとしての才能をいかんなく発揮し、過剰にやりすぎず、でもおもしろいツボを突いた絶妙な演技で魅力的に仕上げている。

 

 経費削減の対象となり、円とたびたび衝突している刑事課の面々も悪くない。

 

 沢村一樹演じる強行犯係の係長は、事件解決のために猪突猛進する古きよき刑事。手段を選ばず裏技的な強引な捜査もおこなうため、円としょっちゅう対立しているが、反発しつつも彼女を認めていく役柄で、ステレオタイプのキャラクターながら沢村の演技によって作品に安定感が生まれている。

 

 ほかにも、硬派な二枚目キャラを演じることが多かった元石原プロの徳重聡が、アイドル好きでよく女に騙される非モテ刑事を演じているのも、そのギャップに意外性があっていい。

 

 一方、松本人志のモノマネでブレイクした芸人・JPは、口を開けば嫌味や皮肉ばかり言うが、実は意外と頭脳派という刑事役で出演しており、こちらもギャップがあってイイ感じ。

 

 徳重とJPの役柄は、パブリックイメージで考えると逆のほうがしっくりくるが、あえて違和感のある配役にしているのかもしれない。それがおもしろくハマッて功を奏している。

 

■「橋本環奈じゃなくてはダメな理由」がない

 

 このようにレギュラー陣のキャラクターや配役は決して悪くないのだが、本作はとてもじゃないがヒットとは呼べない状況に陥っている。

 

 世帯平均視聴率(ビデオリサーチ調べ/関東地区)は第1話6.3%、第2話5.6%、第3話5.3%、第4話5.1%と低水準のうえ、右肩下がりしてしまっているし、見逃し配信の指標となるTVerのお気に入り登録者数も52.0万(11月9日現在)と微妙なのだ。

 

 その原因はいくつか思い当たる。

 

 まず主演の橋本は与えられた役の魅力をしっかり引き出しているが、この主人公は「橋本環奈じゃなくてはダメな理由」があまり見当たらない。

 

 たとえば、橋本が前回主演したのは今年4月期のラブコメ作品『王様に捧ぐ薬指』(TBS系)だったが、演じた主人公は橋本ならではの役どころだった。絶世の美女ゆえに男にすぐ惚れられてトラブルに巻き込まれ、性格が屈折してしまったという悪女役だった。

 

 言わずもがな、絶世の美女役は橋本のビジュアルならば説得力が絶大に増すし、バラエティ番組などで軽妙な毒舌で笑いを取っている彼女の悪女演技は、コメディタッチで嫌味がなく、似合っていた。

 

 けれど誤解を恐れずに言うならば、『トクメイ!』の主人公は橋本以外でも、人気のある若手女優なら、誰でもそこそこのクオリティで演じられるようなキャラクターだと思うのである。

 

■「国民的タレント」だが役者の代表作はナシ

 

 ストーリーは、経費削減を命じられている特別会計係視点で描かれるため、普通の警察ものや事件解決ものと差別化が図られていて、まずまずおもしろい。

 

 ただし、設定やキャラクターに工夫を凝らしているのはわかるが、突き抜けた独創性があるとまでは言えないレベル。要するに、つまらなくはないけれど、絶賛するほどおもしろいわけでもないのだ。

 

 筆者は年間100本ほどドラマ批評コラムを書いているため、知人や友人に「今期のおすすめドラマは?」と聞かれることがたびたびあるのだが、『トクメイ!』は熱弁できるほどの個性やおもしろさはないため、話題にあげづらい。

 

 好き嫌いが分かれるクセがあったほうが大ヒットする可能性もあるが、『トクメイ!』はズバリ指摘するほど大きな欠点はないものの、突き抜けているストロングポイントもない。

 

 ちなみに、これぐらいの温度感のドラマを作っちゃダメだと言いたいわけではなく、こういうほどほどにおもしろいドラマもあっていいのだが、「橋本環奈の新作」と考えるとちょっと物足りないというのが正直なところ。

 

 橋本は去年の『NHK紅白歌合戦』の司会に抜擢されて、その見事なさばきっぷりが絶賛の嵐となり、今年も『紅白』司会を務めることに。そして2024年10月から放送予定のNHK連続テレビ小説『おむすび』の主人公にも抜擢されている。

 

 今や橋本を「国民的タレント」と称しても誰も異論はないだろうが、社会現象を巻き起こすほどの大ヒットとなるような主演作にはまだ巡りあえておらず、役者としての代表作だと堂々と言えるような作品がまだないのである。

 

 橋本サイドとしては、来年の朝ドラ主演の前にひとつ代表作ができているのがベストなはずだが、今回の『トクメイ!』は不発に終わりそうだ。

 

 せめて橋本にとっての黒歴史にならぬよう、今夜放送の第5話以降で本作のファンを少しでも増やしていってもらいたい。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。『日刊SPA!』に恋愛コラムを連載中。ほに『現代ビジネス』『文春オンライン』『集英社オンライン』『女子SPA!』などにコラムを寄稿

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