先日、夫婦でチーズのイベントに参加したのですが、ちょっと残念な気分になりました。まずは、そのことをお話ししましょう。
20人以上の行列ができているブースで、3種類のチーズプレートをもらいました。チーズが大きめに切られていてボリュームがあり、クラッカーやナッツ、ドライフルーツなども添えられていて、プレート自体は非常に充実したものでした。
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しかし、3種類のチーズについてはなんの説明もついていないのです。私はチーズ好きなのでだいたいわかりますが、隣の席からは案の定「このチーズおいしいけど、なんていう名前なんだろう?」という会話が聞こえてきました。それも一組だけではなく、あちこちで同様の会話をしていたのです。
イベントに関するアンケート用紙をお客さん全員に配っていたので、私は「せっかく無料でチーズを配っているのに、チーズの名前がわからなければ、人に教えてあげることができないし、お店で買うこともできない。プレートのどこかにチーズの名前を書き添えてほしい」と記入してアルバイトスタッフに渡すとともに、口頭でもそのことを伝えました。
すると、スタッフからは「チーズの名前はあそこに書いてあります。また先ほど放送でもチーズの名前をお伝えしました」と返ってきたのです。
スタッフの指す方向を見ると、確かにチーズの名前がブース横の小さなボードに掲示されていました。しかし、チーズを受け取る際にボードの存在に気づく人は少ないでしょう。また食事やおしゃべりに夢中になっている参加者のなかで、場内の放送に注意を向けた人がいったい何人いたでしょう。
ほかのスタッフの様子も観察しましたが、チーズの名前を聞くお客さんに対して、やはりボードに書いてあることと、放送で伝えたことを説明していました。つまり、彼らは「言われた仕事」「与えられた仕事」をこなしているだけのようでした。
もちろん、それすらも十分にできない人がいるわけですから、言われた仕事や与えられた仕事をこなすのは大切なことです。また、シールや小さな紙にチーズの名前を書いてプレートに添えておくのは、イベント主催者やブース担当者の仕事かもしれません。
しかし、アルバイトスタッフであっても、臨機応変に対応することは可能でしょう。もし私がこのイベントでアルバイトをしていたならば、「現在お配り中のチーズは、カマンベール、ミモレット、フルムダンベールです」と説明しながら渡すようにします。
■仕事の「目的」と「理由」を理解する
苦言が続きましたが、要はスタッフがイベントの「目的」と、自分がそこで働いている「理由」をきちんと理解していないことからくる対応のまずさなのだと思います。
このイベントは何を目的におこなわれているのか? それは、チーズの魅力を一人でも多くの人に知ってもらうことでしょう。
そして、スタッフが存在する理由は、目の前のお客さんに「楽しんでもらう」「満足してもらう」ことです。
それがわかれば、アルバイトの目的は「言われた仕事をこなす」だけではなく、「チーズの魅力を多くの人に広める」ことも含まれるのです。
■インプット仕事しかできない人=「気が利かない人」
目的と理由を考えるということは、会社の仕事についてもまったく同じことがいえます。
私のYouTubeチャンネルで「報連相(報告・連絡・相談)を密におこなおう」という内容の動画をアップすると、「上司に言われた仕事について、わからないことを質問したら、 “自分で考えろ!” と言われた。自分で考えてもわからないから質問したのに」というコメントが必ずつきます。
上司の「自分で考えろ!」を補足すると、「その仕事の目的やすべき理由は何か、自分で考えろ!」ということでしょう。たとえば、資料の作成を命じられたとしたら、細かい部分はともかく、「クライアントの満足度を高める」という目的や理由が明確になっていれば、資料の出来具合を自分で判断する指標となります。そこに、クライアントが要求する以上のアイデアを自分で追加することもできるはずです。
前回の連載でもふれましたが、言われた仕事を言われたとおりにやるだけの受け身型の仕事は「インプット仕事」。与えられた仕事の理由や目的を考えて、それを最適化すべく、自分のアイデアやオリジナリティを追加し、自発的に動いていく仕事が「アウトプット仕事」です。
それぞれの仕事の特徴を挙げると、インプット仕事が「保守的」「現状維持」「問題意識がない」「学びがない」「常に反対する」「自己中心的」、アウトプット仕事が「革新的」「自己成長」「常に問題意識がある」「学ぶ意欲にあふれている」「常に可能性を考える」「他者貢献」になります。
インプット仕事は、ロボットやAIにどんどん置き換えられていくはずなので、インプット仕事しかできない人は将来、職を失うことになるでしょう。
また、今回の体験で思ったのは、世間一般の表現で「インプット仕事しかできない人」=いわゆる「気が利かない人」、「アウトプット仕事ができる人」=いわゆる「気が利く人」といえることです。