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「自分の凸凹を愛す」「人は未来を作れる」泉房穂氏・乙武洋匡氏が指南「ドン底から抜け出して超ポジティブに生きるには」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.09.08 06:00 最終更新日:2023.09.08 06:00

「自分の凸凹を愛す」「人は未来を作れる」泉房穂氏・乙武洋匡氏が指南「ドン底から抜け出して超ポジティブに生きるには」

挫折をもろともしない泉房穂氏と乙武洋匡氏

 

 少数者を排除しない街作りを実践した前明石市長の泉房穂氏と、『五体不満足』の著者で政治活動家の乙武洋匡氏が誌上対面。“欠点” を共有する2人が、日本社会の課題と幸せについてぶちまけた!

 

乙武 泉さんは「信念の人」。「政治は弱者のため、困っている人のためにある」が芯にあるからブレないし、自分がすべきことをわかっている。そして、批判されてもはね返す強さがある。僕のロールモデルの一人です。

 

 

泉 私にとって乙武さんは、「可能性の人」やね。『五体不満足』が出たときに受けた衝撃は忘れられません。障害を抱えながら乙武さんはあっけらかんと、普通に生きている。完全に抜け切った爽やかさは、よく覚えています。それからずっと応援しています。

 

 だが、2016年に「週刊新潮」が報じた5人の女性との不倫は、乙武氏の印象を覆した。

 

乙武 スキャンダルの前は、僕は「白一色」と見られていました。たまにイメージに合わないことを話すと、「そこまで謙遜して乙武さんはエラいですね」と、かえってプラス評価されたり。僕自身はいずれメッキが剥がれると思い、遊んでいたりだらしない一面を披露しても、メディアにはまったく取り上げてもらえなかった。

 

 ところが、スキャンダルが出たとたん、今度は「黒一色」にしか見てもらえなくなったんです。どんな発言をしても、「偽善的なことを言うな」と批判されました。

 

泉 例の報道があったとき、私は驚かなかった。障害があろうがなかろうが、人間、生きていればいろいろある。

 

 ただ、まわりの反応がしんどかったのも事実。2022年の参院選で乙武さんを応援したとき、「あんなヤツをなんで応援すんねん」と叩かれた。結果は落選でしたが、乙武さんは、また選挙に出たらいい。「叩かれる障害者」って貴重な存在なんです。私は「叩かれる」と「輝く」は、一緒やと思う。

 

 泉氏も暴言で市長を辞して再選し、再び暴言で引退するという挫折を味わった。

 

泉 乙武さんの一件が出た裏には、じつは政治的思惑があったんやないか。結局、選挙のタイミングを見計らって、「せーの」で出した話でしょう。

 

 私の発言も2年前の録音を切り取って編集したものだった。ただ、その部分だけを再生すると、本当に脅しているように聞こえる。口が悪くて、声がでかいだけなんやけど(笑)。そもそも明石弁で「火つけてこい!」と言っても、本当にそうするとは誰も思わん。「もっと本気でやれ」くらいのニュアンスです。

 

 乙武さんは逆風のなかでも、ちゃんと発信を続けてこられた。私もなんとか持ちこたえて、「FLASH」で連載をさせてもらっている。等身大の自分として役割を果たそうとしているところで、お互い戦友的な部分があります。“自爆” の戦争やけど(笑)。

 

乙武 スキャンダル後、「ホワイトハンズ」代表の坂爪真吾さんが寄稿された言葉がとくに嬉しかった。この団体は、自慰ができない障害者のために介助をおこなっています。

 

「乙武んが一貫して目指してきたのは、障害者が一人の人間として扱われること。全力で叩いてもいいと世間が認定した障害者は、たぶん日本で乙武さんが初めて。これは大きな功績なんじゃないか」という趣旨のことを書いてくださった。それは今、泉さんがおっしゃった言葉とも重なり、非常にありがたかったですね。

 

●『24時間テレビ』と歪んだ障害者像

 

泉 同じ少数者でも、LGBTQに比べて、障害者の対策はあまり進んでいない。相も変わらず、一種の憐みとお恵みの対象。そうすると、社会に余裕があるときはいいけど、不景気になれば、その施しすらなくなってしまう。

 

 そして、メディアが障害者の画一的なイメージを捏造している。“感動ポルノ” と批判される『24時間テレビ』に登場するのは、品行方正で困難に挑戦するような障害者ばかり。もっと生身の障害者に向き合う視点が必要です。

 

乙武 日本では「障害者に優しくしましょう、助けてあげましょう」と、「道徳」の問題として処理しがちです。でも、本当は「権利」の問題として考えるべき。助けてあげる、あげないの話じゃない。

 

 最近、ある知的障害者のカップルが子供を作ったことが、X(旧ツイッター)で話題になりました。2人だけでは子育てができないので、24時間体制でボランティアが支えている。このことが大バッシングされたんです。「こうなることはわかっていて、なぜ子供を作った、無責任だ」と。

 

 でも誰であれ、愛する人との間に子供を生み、育てたいと思うのは基本的な欲求であり権利。まわりの「善意」がなければ、障害者カップルは子供を持てないというのではなく、国や自治体のサービスによって可能にする仕組みを作っていく。それが本当のゴールだと思います。

 

泉 乙武さんは当事者として「権利」という言葉を使っていますが、私は政治家目線で「環境整備」と表現します。障害者が子供を生み育てたいと言えば、そのためのインフラを作るのが政治なんです。

 

 人間は自分一人で全部できるわけじゃなく、誰かの世話になって生きている。その意味では、全員が “障害者”。

 

 市長時代、よく市の職員に「空飛べるか?」と聞きました。市長室は3階にあって、もし鳥のように空を飛べたら階段は要らん。でも、人間は鳥やないから階段を造った。なのに、なんで車椅子の人のためにエレベーターを造らんのやと。

 

 いわゆる健常者が多数派だから、みんなに合わせるのが正解と思っているけど、ほんまにそうか。明石では多数派ではなく、少数派の施策を積み重ねる方法を取った。だから「安心」が生まれる。

 

乙武 お話を聞いてるだけで涙が出てきそうです。本来、少数派と政治って相性が悪いもの。そもそも選挙とは、一票でも多く取った者が勝ちというゲームです。

 

 では、少数派の政策をどうやって実現するのか。答えを探しているなかで、出会ったのが泉さんでした。議会と戦って、きちんと少数派のための環境整備をしてくださっている。当事者として、本当に心強いです。

 

泉 明石で目指したのは「みんなハッピー」の社会です。障害者福祉では、全額公的助成で商店街をバリアフリーにし、スロープをつけた。それは障害者のためだけじゃない。車椅子もベビーカーも通りやすい。足が悪くなった高齢者もつまずきにくい。

 

 障害者が入りやすい店を造れば評判が高まるし、客が増えますやん。商売人にとって、「障害者は儲かる」んです。しかも、改装費は全額税金で持ついうとんやから、やらん理由はない。店が繁盛すれば、税収で返ってくるから行政も助かる。結局、街のみんなの利益になるんです。「障害者はかわいそう」じゃ、福祉は広がらん。

 

乙武 2017年に、3カ月ぐらいロンドンに滞在した際に驚いたのは、東京のほうが圧倒的にバリアフリーが進んでいるということでした。

 

 ロンドンではエレベーターを設置している地下鉄駅の割合は全体の約6割。エレベーターのない駅で、車椅子の人はどうするか。階段の上で待っていると、数分もしないうちに声をかけられて、「せえの」で下まで運んでもらえます。それがわかっているから、みんな安心してエレベーターがない駅を使うんです。

 

泉 これも明石の自慢になりますが、市民はよく「街が変わった」と言います。いちばん変わったのは、人の対応。かつては、障害者や高齢者が重い荷物を持っていても無視されていたのが、今はみんなが手助けしようと、荷物を取り合うほど。駅前の一等地にバリアフリートイレを男女、多目的の3部屋造るなど、「障害者に優しい街」を見える化したのが効いたんです。

 

乙武 じつは最近、SNSで炎上する障害者が多い。僕も10年ぐらい前、銀座のイタリアンの店に入れてもらえず、そのことをXに書いてバッシングされました。

 

 また、2年前に、障害者の伊是名夏子さんというコラムニストが、JR来宮駅まで乗ろうとすると、無人駅を理由に介助を断わられた。交渉の末、駅員が同乗することになりましたが、その経緯について伊是名さんが「乗車拒否に遭った」とブログに書くと、「あなたがおかしい」と叩かれたんです。

 

●失敗や欠点を含めて自分を愛す

 

泉 目が見えない人に「なんで見えんのや」と怒ったってしょうがない。目が見えなかったら声をかければいいし、耳が聞こえなかったら筆談すればいい。車椅子であれば、みんなで抱えてあげればいい。「できない」から「できる」へと発想を転換する。そこが日本の場合、まだ中途半端。

 

 人口の10%くらいはなんらかの障害を持っているといわれています。だから、国会でもその比率と同じ数の障害者の議員が必要です。ところが今の日本は、「オッサンで健康な金持ち」による政治。議席の10%を障害者が得れば、世の中は変わる。それを実現するために、乙武さんにはぜひ国会で活躍してほしい。

 

“黒歴史” すら己の一部として語る2人は強い。“人生どん底” から、いかにして這い上がったのか。

 

乙武 自分の凸凹をわきまえていたことがいちばんだと思います。自分は何が得意で、何ができないのか。それがわかれば、どこにフィットするかも見えてきます。僕はこれまで経験した失敗や人格的な欠点を含めて、自分を愛すべき存在と思っていて、そういう自己肯定感も重要ですね。

 

泉 ほんまに今、私は朝起きた瞬間に「幸せ」なんです。このキャラクターで好き放題やってきて、まだ命があって生きてるやん。その後に思うのは「朝ごはん、何食べよ」。食べるものを自分で決められる。自分の人生を自分で選び取ってるやないですか。

 

 人は意外と未来を作れる。私は欠点だらけだが、自己肯定感は強い。できそこないの自分を愛せることも大事。そう言うと「あざとい」と、叩かれるけど(笑)。

 

いずみふさほ
1963年、兵庫県明石市生まれ、明石市育ち。東京大学教育学部卒。弁護士。元衆院議員(2003〜2005年)。前明石市長(2011〜2023年)。現在は日本社会を変えるべく、講演や執筆をおこなうう

 

おとたけひろただ
1976年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版した『五体不満足』が600万部超。スポーツライターとして活動後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任

( 週刊FLASH 2023年9月19日号 )

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