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ランキングで明らかになった意外な「軽トラ」盗難被害急増「海外市場がない」ニッチ車が盗まれる背景を専門家が解説

社会・政治 投稿日:2024.03.15 20:57FLASH編集部

ランキングで明らかになった意外な「軽トラ」盗難被害急増「海外市場がない」ニッチ車が盗まれる背景を専門家が解説

軽トラックの新車販売でトップクラスのダイハツ・ハイゼット

 

 警察庁は3月、2023年に盗難被害に遭った車種別のランキングを発表した。それによると、クラウンやレクサスLSなど高級車を押さえ、6位と7位にスズキのキャリイとダイハツのハイゼット、つまり人気の軽トラックがランキングしていたことが明らかになった。

 

 

 その上には、大型ミニバンのアルファード、オフロード車のランドクルーザー、世界初の量産ハイブリッド車であるレクサスなどが占め、次いで115台のキャリイと107台のハイゼットが入ってくる。

 

 このランキングは長年、1~5位のみの発表だったが、2023年6月から10位までが公表されるようになった。その結果、軽トラックの意外な盗難被害が明るみに出たのだ。

 

 データは2021年分から公開されており、過去3年分のランキングを見ても、2021年はハイゼットが117台で7位、キャリィが75台で9位、2022年はキャリイが122台で8位、ハイゼット95台で10位となっている。

 

 自動車評論家で『軽トラの本』という著作もある沢村慎太朗氏は、この軽トラックの盗難被害について、よく報じられる「窃盗団」の犯行ではない、と断言する。

 

「自動車窃盗には、2つの大きなパターンがあります。ひとつは、フェラーリやポルシェといった超高級車狙い。色や年代、オプションまでターゲットの指定があって、本物の“プロ”の仕事です。もうひとつは、ランクルやハイエースといった、世界中どこへ持って行っても売れる、汎用性の高い車狙い。軽自動車は海外にない規格なので、市場が成立してないんですよ」

 

『軽トラの本』が出版された2017年の時点では、沢村氏は盗難被害が多いとは沢村氏も聞いていなかったという。

 

「ただ、海外にもマニアがいて、荷台を外してレース車にしたり、四駆車でオフロードにチャレンジしたりするといった話は、20年も前から耳にしてましたよ。しかし、それはすごくニッチな市場。それがあるからって、シンジケートが手を出すとは思えません」

 

 3月12日配信のテレビ朝日の記事《「まさか盗まれるものだとは…」“価格高騰”“盗難増加”世界でブームの『軽トラ』》では、州内での軽トラックの公道走行が認められた、米ノースカロライナ州の中古軽トラック専門店を紹介。そこではいま、軽トラックが飛ぶように売れ、27年前の軽トラックが日本円で110万円以上で購入されたと伝えられた。ただ、これは説明不足の報道だった。じつは1960年代には、米国の基準に合わせた軽トラックが輸出されていたが、1968年に衝突安全基準などが厳格化されて、中止になった経緯がある。

 

 現在、660cc以下の軽自動車は、米国では総じて、日本でいう小型特殊車両や農業用作業車のような扱いを受ける。そして、米国では右ハンドル車は原則、輸入禁止だ。個人で改造しない限り、左ハンドル仕様の軽トラックは存在しない。ただ、製造から25年、経過すれば、クラシックカーとして輸入が認められるため、それだけ年季の入った軽トラックが歓迎されるのだ。現に、専門店のオーナーは右ハンドル車を運転していた。そして、店で扱う車もすべて“クラシック軽トラ”だった。

 

 米国以外では、2020年7月から輸入車規制が緩和されたオーストラリアでも、軽トラックは人気。農村地帯での需要が大きいという。英連邦の多くが右ハンドルで、オーストラリアも同じ。軽トラックで走っても、なんの支障もない。

 

 上記のような経緯や状況を無視し、軽トラック盗難の「大袈裟な報道が続く」事態への懸念を示しながら、沢村氏はさらに補足する。

 

「これまで、海外での軽トラの需要はホビーとしてで、オークションで高値もつきましたが、あくまで好事家間でのこと。軽トラの魅力は、やはり利便性と、小柄な体躯からは想像しにくいタフな積載能力にあります。軽トラは荷物を積んだほうが、ハンドリングの限界性能が上がり、走行も安定します。法定の積載量は350kgですが、それ以上を積んでも平気なように設計されています。

 

 ただ、そうした(荷を積む)目的抜きに盗む、というのは考え難い。泥棒は割に合わないことはしないんです。1万円を盗んでも100万円を盗んでも同じ罪なら、どちらを盗むかという話です」

 

 テレ朝の報道でも、関係者の談として、「不正輸出の可能性もあるが、摘発された事例は聞かない」と伝えている。過去には盗難されたハイエースが解体され、部品が海外で売られた例もあるが、軽トラックにそのような汎用性はない。沢村氏は、かりに窃盗団の犯行だとしても、なんにでも手を出す「二流の連中の仕業」だと見なす。

 

「安価な軽トラには、イモビライザー(車両盗難防止装置)などはついていません。そもそも、鍵も差しっ放しで、よく道端に停まっているでしょう。道端に置いてあるママチャリや、コンビニの傘立てのビニール傘と一緒で、ふとそれが目につき、寸借感覚で盗んでしまう、といった例も多いのではないでしょうか」

 

 全国軽自動車協会連合会によると、日本国内の軽トラックの保有台数は2021年3月末時点で478万台とされる。2022年の新車販売台数は約16万8000台で、うち9万142台とトップを占めるのがハイゼット、次いで売れているのが5万5683台のキャリィ。3位の日産NT100クリッパーは7882台と、5ケタに満たない。「それだけハイゼットとキャリィは田舎で普及している」と沢村氏。

 

「盗みやすいから、犯罪使用目的で狙われる、ということはあり得ますね。ほかのものを盗んだり、ヤバい何かを運んだうえで乗り捨てる、といった可能性は否定できない」

 

 テレ朝の報道では、埼玉県のリフォーム会社で盗難に遭った被害者にも取材していた。2カ月後に、110km離れた茨城県内で発見された際、車はなぜか真っ黒に塗られており、ナンバーも外されていた。夜の闇に紛れて、それこそ窃盗の犯行に用いられたのなら納得が行く。また、荷台はゴミだらけで、持ち主によれば「廃品回収に使われたような」形跡があったという。

 

 最近ではその足回りのよさから、ソロキャンプ用などに軽トラを購入するアウトドア愛好家も多いが、鍵をつけたまま車を離れるのはやめるべきだ。

 

文・鈴木隆祐

( SmartFLASH )

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