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「葬儀」の販促に知恵を絞った男、老人たちに算数の授業も

ライフ・マネー 投稿日:2018.11.08 11:00FLASH編集部

「葬儀」の販促に知恵を絞った男、老人たちに算数の授業も

 

 名刺をもらって驚いた。横書きで、左右は普通のサイズだが、上下で計7つの山を持つ蛇腹折りで、片側8面ある。両面カラー印刷で、会社のミニパンフレット化している。セミナー・イベントの面を開くと、「今どきのお葬式」など、実施したタイトルが30以上並ぶ。

 

 名刺の持ち主・寺村公陽さん(54)いわく、「機械では折れないので、自分で折るのが大変」とのことだが、普通の名刺の10倍もの面積があり、会社のPRにこれほどぴったりのツールはないという。

 

 

「新横浜駅近くにある(株)ニチリョクの葬儀場『ラステル新横浜』の事業部長に就任したのが3年前。それがある意味では転機になりました。

 

 あまりイベントをしてきませんでしたが、就任後は販促活動の一環として、毎週さまざまなセミナーを開き、講師もしています。

 

 半年に一度は、実際の葬儀とまったく同じ流れで模擬葬儀もおこないます。お客様に葬儀場の名前を覚えてもらい、実際に来ていただくのが目的です。

 

 当初は社内でも疑問に思う人がいましたが、3年間で葬儀件数を33%伸ばしたこともあり、いまでは集客にはまずイベントだ、となりました」

 

 2017年4月、NHKの『ドキュメント72時間』で「都会の小さいお葬式」が放送された。ラステル新横浜でおこなわれた少人数による葬儀の、大切な人との別れと気持ちを整理する3日間を追ったものだ。

 

 そして、2017年放送された同番組の「視聴者がもう1度見たい1本」のリクエストで、第1位となった。

 

「偶然ではなく、それまでの地道な販促活動が、制作者の目に留まった結果だと思います」

 

 2018年3月、ニチリョクは力を入れてきた「堂内陵墓」の販売不振から、赤字決算となった。創業者である父親は責任を取り、代表取締役社長から、代表権のない取締役会長となった。

 

 それ以前に、人事異動により寺村さんをはじめ、取締役の降格人事もおこなわれた。寺村さんは勤務先が東京本社に変わったが、セミナーの企画や講師は続けている。

 

 49歳で宅地建物取引士の資格を取り、51歳のときには行政書士の資格を取った。合格率が10%前後の難関だ。

 

「セミナーで葬儀の話をしていると、やはり人生相談みたいになる。お客様は葬儀やお墓の悩みの前に、相続とか、片づけなければいけない悩みをいっぱい抱えている。

 

 終活全般をおまかせください、というのが私のスタンス。それで資格を取りましたが、おかげで個別の相談にも応じられるようになりました。

 

 高齢化社会になり、これからは葬儀社が儲かると思って新規参入してくるところが多い。でも、単価が安くなるので、亡くなる人が増えても葬儀社は儲からない。

 

 葬儀業界というくくりで事業をしていたら、先細りになるだけです。今後は葬儀に限らず、シニアライフをサポートする会社になる必要があります。

 

 ご本人の葬儀は一回だけ、リピートはありません。だから、リピートする仕事を作っていかなければいけない。求められるのは生活支援事業。ニーズとして増えていくと考えています。 

 

 知らない人同士が集まって楽しんでもらおうと、いろいろな催し物を考えています。うちは、日常では必要のない会社なので、消費者の日常の中に入りたいと考えています。

 

 それで新たに始めたのが『人生百年学校』。私やスタッフが先生になり、授業形式で国語、算数、理科、音楽などを楽しむのですが、毎回10人から20人ぐらいのお客様が参加されます。

 

 だいたいは7、80代。この前は90歳のおばあちゃんが来られた。男性の参加者も多く、ほぼ男女半々です」

 

 葬儀のあり方が変化してきて、今は少人数による家族葬がメインだ。なかには家族に金銭的な迷惑をかけるから、葬儀はどうでもいいという人もいる。

 

 しかし、金銭の問題ではないと寺村さんは言う。

 

「仏教では初七日、四十九日など追善供養が続きますが、そのスタートの儀式が葬儀です。葬儀は亡き人に対する感謝と、送る人の心のケアに必要なものなのです」

 

 逝く人と送る人のすれ違う思い。生前にしっかりと話し合っておくべきだろう。

 

(週刊FLASH 2018年11月13日号)

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