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転職の要諦は「何になりたいか」ではなく「何がやりたいか」

ライフ・マネー 投稿日:2019.03.30 11:00FLASH編集部

転職の要諦は「何になりたいか」ではなく「何がやりたいか」

 

 これまでの長いこと、キャリア論においては「好き」と「得意」の重なる領域から仕事を選びなさい、とアドバイスされてきました。一見して非常に説得力もありますし、これを踏まえて答えを出せば、自分にフィットした仕事を見つけられそうな気もします。

 

 ここで考えてみたいのが「自分は何がやりたいのか?」という問いです。気をつけないとかえって本人のキャリアをミスリードすることになりかねないと考えています。なぜでしょうか?

 

 

 一つ目の理由は、往々にして人は「自分が好きなこと」と「自分が憧れていること」を混同しているからです。

 

 例えば「問題の解決策を考えるのが好き」と主張して、経営コンサルティング会社への転職を希望する方は大変多いのですが、そういう方に、では最近考えている問題を取り上げて、どのような解決策が適切なのか、あなたの考えを教えてください、と振ってみると、まともな回答が返ってこないケースがままあります。

 

 これは典型的に「好き」と「憧れ」を混同してしまっているケースです。御本人にとっては紙一重なのですが、「コンサルティング会社で問題解決をしている自分」のイメージに憧れているだけで、問題解決という営みそのものを日常生活の中で愛好しているわけではないのです。

 

「コンサルティングファームの社員になりたい」のであって「コンサルティングをしたい」のではない、という言い方もできるでしょう。

 

 本当に問題解決という営みそのものを愛しているのであれば、仕事上の要請を離れても、勝手に自分で、例えば社会的な問題について問題を設定して解決策を考える、ということを繰り返しているはずなので、「問題は何? どう解決すればいいの?」といった質問を投げかければ、一晩中でも話し続けるだけのストックを持っているはずなんです。

 

『ウェブ進化論』(ちくま新書)の筆者である梅田望夫さんは、著作を出されるずっと前から、特に誰から頼まれたわけでもないのに、様々な問題意識を企画書やレポートの形にまとめて「世の中がいかにインターネットによって変わるか」「あなたの会社にとってどのようなインパクトがあるのか」について議論を仕掛けていらっしゃいました。

 

 こういったメンタリティ、つまり放っておいてもとにかく何かを深く考え続け、何らかの方向性を打ち出して、それを人に話さないではいられないというのが、この場合、梅田さんが発揮された「好き」の実体であり、外資系コンサルティングファームのコンサルタントという肩書きは二の次の問題なのです。

 

 コンサルタントになった後でそういう行動特性を発揮される方は、コンサルタントになる前から、その萌芽と言えるような営みを日常的に行っているはずで、そのような行動がほとんど観察されていないのであれば、その人の「好き」は実体を持たない単なる「憧れ」に過ぎない、ということです。

 

 この指摘を、少し角度を変えてしてみましょう。

 

 仕事選びの際に考える2つの問い、つまり「自分は何になりたいのか?」と「自分は何がやりたいのか?」は、ほとんど同じ質問に思えるかもしれませんが、実は全く異なる質問だということです。

 

「自分は何になりたいのか?」という問いは、先ほどの枠組みで指摘すれば「憧れ」に基づいて職業選択を考える、ということです。

 

 しかし、このような思考の末にめでたく憧れの職業に就いたとしても、その仕事が本人にとって「好きで得意」なことかどうかは、分かりません。なんといっても職種や社名に対する憧れが先行しているわけですからね。

 

 一方で後者の問い、すなわち「自分は何がやりたいのか?」について、本当にしっかりと見極めができれば、それは職業選択の大きな軸になるでしょう。なぜかというと、世の中的な評価に惑わされることなく、自分がやってみて嬉しいことを追求できるからです。

 

 どの職業の年収が高いとか、どの職業がモテるかといった状況は、今後の世界ではどんどん変化していくことになります。もし、ある職業に対する憧れが、世の中的な評価に影響されて形成されたものであれば、世の中の評価が変わると、自分の憧れも霧散してしまうことになります。そんなことが起きれば悲劇としか言いようがありません。

 

 しかしもう一方の問い、つまり「自分は何がやりたいのか?」という問いに基づいて選択された仕事の場合、世の中の評価の変遷にはあまり影響を受けることがありません。

 

 繰り返しますが、「自分は何になりたいのか?」と「自分は何がやりたいのか?」という問いは、全く別の問いだということです。

 

 さらに重ねて指摘すれば、職種のタイトルではなく、そもそもの仕事内容が「好き」という場合、長い期間にわたって継続的に努力できる、という強みがあります。これがなぜ強みになるかというと、長期的な努力は才能を帳消しにするからです。

 

 これからの世界を生きていく私たちは、従来の「20歳前後で働き始めて、60歳前後で引退する」というモデルから脱却し、かなりの長い期間を働かなくてはいけない世界を生きることになります。つまり、人生そのものがスプリントレースからマラソンに変化していくわけです。

 

 このような世界にあって、職業選択に当たって「地道な努力を続けられるかどうか」というのは、実は最も重要な着眼点になってくる可能性があります。そのためにも「自分は何がやりたいのか? 何をしていると楽しいのか?」という質問のほうが、「自分は何になりたいのか?」という質問よりも、遥かに重要だということになります。

 

 

 以上、山口周氏の新刊『仕事選びのアートとサイエンス』(光文社新書)をもとに再構成しました。11万部突破の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』の著者が贈る、幸福になるための仕事選びの方法!

 

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